古典ライブラリー

万葉集 巻第三 426番

草枕 旅の宿に

柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)

旅の途中で倒れ伏しているのは誰の夫だろう。故郷も忘れたように横たわっている。家では帰りを待っているだろうに。香具山で行き倒れの死者を見た人麻呂の歌。

香具山のふもとの草むらに、旅姿の男が倒れ伏し、通りかかった男が立ち止まって見下ろしている

題詞柿本朝臣人麻呂、香具山に屍を見、悲慟して作れる歌一首

  1. 1草くさ草くさくさ枕まくら枕まくらまくら草枕
  2. 2旅たび旅たびたびののの宿やどり宿やどりやどりににに羈宿爾
  3. 3誰た誰たたががが夫つま夫つまつまかかか誰嬬可
  4. 4國くに國くにくに忘わす忘わすわすれれれたるたるたる國忘有
  5. 5家いへ家いへいえ待ま待ままたたたまくまくまくににに家待眞國

引用の仕方

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現代語訳

(草枕)旅の途中の宿りに倒れているのは、誰の夫だろうか。故郷も忘れたように横たわっている。家の人は帰りを待っているだろうに。

意訳

都に近い香具山で、人麻呂は行き倒れの死者を見つける。この人にも妻があり、家では帰りを待っているだろうに、故郷を忘れたように横たわっている。死者の家族の思いにまで心を寄せる、人麻呂の行路死人歌の一つである。

語釈・文法注

文法・本文

國忘れたる
故郷を忘れてしまったように横たわっている。
家待たまくに
「まく」は「む」のク語法。家の人が待っているだろうに。

和歌

作者
柿本人麻呂(生没年未詳(7世紀後半〜8世紀初め))
持統天皇・文武天皇の時代に宮廷に仕えた歌人。
出典
『万葉集』巻第三・挽歌・426番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
柿本人麻呂が、香具山で死者を見て、悲しんで詠んだ歌。

修辞

枕詞
「草枕」が「旅」にかかる。

解説

讃岐の狭岑島の歌(220〜222番)と同じく、行き倒れの死者を悼む歌である。藤原京のすぐそばの香具山でも、こうした死者があったことがうかがえる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、119頁(コマ63)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、122頁(コマ67)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日