古典ライブラリー

万葉集 巻第六 978番

士やも 空しかるべき

山上憶良(やまのうえのおくら)

男子たる者、むなしく終わってよいものか。後の世まで語り継がれるような名を立てもしないで。重い病の床で、山上憶良が涙をぬぐいながら口ずさんだ歌。

病床に横たわる老人が、見舞いの使者を前に、涙をぬぐいながら天井を見つめている

題詞山上臣憶良、痾に沈める時の歌一首

  1. 1士をのこ士をのこおのこやもやもやも士也母
  2. 2空むな空むなむなしかるしかるしかるべきべきべき空應有
  3. 3萬よろづ萬よろづよろず代よ代よよににに萬代爾
  4. 4語かた語かたかたりりり續つ續つつぐぐぐべきべきべき語續可
  5. 5名な名ななははは立た立たたてててずずずしししててて名者不立之而

引用の仕方

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現代語訳

男子たる者が、むなしく終わってよいものだろうか。いつまでも語り継がれるような名は立てもしないで。

意訳

重病の床にあった憶良のもとに、藤原八束が河辺東人を見舞いに遣わした。病状を答え終えた憶良は、しばらくして涙をぬぐい、男子として後世に名を残すこともなく死んでいくのかと、悲しみ嘆いてこの歌を口ずさんだ。憶良の辞世とされる歌である。

語釈・文法注

文法・本文

士やも
「やも」は反語。男子がむなしくあってよいだろうか。

和歌

作者
山上憶良(660?–733?)
遣唐使に加わって唐に渡り、のちに筑前守となった。人生や社会、家族への愛を詠んだ独自の歌を残した。
出典
『万葉集』巻第六・雑歌・978番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
天平5年(733)ごろ、山上憶良が病に伏していたとき、藤原八束の見舞いの使いに答えた後、口ずさんだ歌。

解説

名を立てることを男子の本分とする儒教的な考えが表れている。憶良はこの後まもなく亡くなったとみられる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、238頁(コマ123)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、260頁(コマ136)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日