古典ライブラリー

万葉集 巻第六 928〜930番

押照る 難波の國は

笠金村(かさのかなむら)

古びた里と人々が思い捨てていた難波に、天皇が長柄の宮を太く高く造って国をお治めになると、味経の原に官人たちが仮屋を建てて、都のようになった。聖武天皇の難波行幸に従った笠金村の歌。

冬の難波の野に新しい宮殿の柱が高く立ち、そのまわりに官人たちの仮屋が並んで町のようになっている

題詞冬十月、難波宮に幸せる時、笠朝臣金村の作れる歌一首并に短歌

  1. 1押おし押おしおし照て照ててるるる難波なには難波なにはなにわののの國くに國くにくにははは忍照 難波乃國者928 長歌
  2. 2葦あし葦あしあし垣かき垣かきかきののの古ふ古ふふりりりにににししし郷さと郷さとさとととと葦垣乃 古鄕跡
  3. 3人ひと人ひとひと皆みな皆みなみなののの念おも念おもおもひひい息やす息やすやすみみみててて人皆之 念息而
  4. 4つれつれつれももも無な無ななくくくありありありししし間あひだ間あひだあいだににに都禮母無 有之間爾
  5. 5續う續うう麻み麻みみををおなすなすなす長柄ながら長柄ながらながらののの宮みや宮みやみやににに續麻成 長柄之宮爾
  6. 6眞ま眞まま木き木きき柱ばしら柱ばしらばしら太ふと太ふとふと高たか高たかたか敷し敷ししきききててて眞木柱 太高敷而
  7. 7食をす食をすおす國くに國くにくにををを治をさ治をさおさめめめたまへたまへたまえばばば食國乎 收賜者
  8. 8沖おき沖おきおきつつつ鳥とり鳥とりとり味經あぢふ味經あぢふあじうののの原はら原はらはらににに奧鳥 味經乃原爾
  9. 9もののふもののふもののふののの八や八やや十そ十そそ伴とも伴ともともののの雄を雄ををははは物部乃 八十伴雄者
  10. 10廬いほり廬いほりいおりしししててて都みやこ都みやこみやこなしなしなしたりたりたり旅たび旅たびたびにににはははあれあれあれどもどもども廬爲而 都成有 旅者安禮十方
  11. 11荒あら荒あらあら野ぬ野ぬぬらららににに荒野等丹929 反歌
  12. 12里さと里さとさとはははあれあれあれどもどもども里者雖有
  13. 13大おほ大おほおお王きみ王きみきみののの大王之
  14. 14敷し敷ししききき座ま座まますすす時とき時ときときははは敷座時者
  15. 15京師みやこ京師みやこみやことととなりなりなりぬぬぬ京師跡成宿
  16. 16海あ海ああ未ま未まま通を通をお女とめ女とめとめ海未通女930 反歌
  17. 17棚たな棚たなたな無な無ななししし小を小をお舟ぶね舟ぶねぶね棚無小舟
  18. 18榜こ榜ここぎぎぎ出づ出づずらしらしらし榜出良之
  19. 19旅たび旅たびたびのののやどりやどりやどりににに客乃屋取爾
  20. 20楫かぢ楫かぢかじののの音と音とと聞きこ聞きこきこゆゆゆ梶音所聞

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔928〕(押照る)難波の国は、(葦垣の)古びてしまった里だと、人々が皆思いあきらめて、顧みることもなかったのに、(續麻なす)長柄の宮に真木の柱を太く高く立てて、国をお治めになると、(沖つ鳥)味経の原に、(もののふの)大勢の官人たちは仮屋を建てて、都のようになっている。旅ではあるけれども。

〔929〕荒野であるこの里ではあるが、大君がお治めになっている時は、都となった。

〔930〕海人の娘たちが棚無し小舟を漕ぎ出すらしい。旅の宿りに、楫の音が聞こえる。

意訳

孝徳天皇の長柄豊碕宮の跡として古びていた難波に、聖武天皇は宮を改造した。天皇が行幸すると、味経の原には官人たちの仮屋が立ち並び、旅先ではあるが都のようなにぎわいになった。反歌では、荒野の里も天皇がいらっしゃると都になると讃え、宿で聞く海人の娘たちの舟の楫の音に旅情を添えている。

語釈・文法注

文法・本文

續麻なす
紡いだ麻のように長いことから、「長柄」にかかる枕詞。
沖つ鳥
「味経(あぢふ)」にかかる枕詞。あじ鴨の意から。
食國
「をすくに」は天皇が治める国。

和歌

作者
笠金村(生没年未詳)
元正天皇・聖武天皇の時代の宮廷歌人。行幸に従った歌や旅の歌が多い。
出典
『万葉集』巻第六・雑歌・928〜930番
歌体
長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
冬十月、聖武天皇が難波宮に行幸したときに笠金村が詠んだ長歌と反歌二首。神亀2年(725)の作とみられる。

修辞

枕詞
「押照る」「葦垣の」「續麻なす」「沖つ鳥」「もののふの」。

解説

藤原宇合が改造を指揮した難波宮(巻第三の312番)の行幸の歌である。荒れた古都が天皇の来臨でよみがえるという発想は、宮廷讃歌の型の一つ。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、228頁(コマ118)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、249頁(コマ130)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日