古典ライブラリー

万葉集 巻第五 847〜848番

我が盛 いたく降ちぬ

大伴旅人(おおとものたびと)

私の盛りの年はすっかり衰えてしまった。雲に飛ぶ仙薬を飲んでも、また若返ることがあろうか。それよりも都を見たら、いやしい私の身もまた若返るだろう。梅花の宴の後に、故郷の都を思った大伴旅人の歌二首。

梅の散った大宰府の館で、初老の貴人が仙薬の小壺を手にしながら、東の空の都の方を見つめている

題詞員外、故鄕を思ふ歌兩首

  1. 1我わ我わわががが盛さかり盛さかりさかり和我佐可理847
  2. 2いたくいたくいたく降くた降くたくたちちちぬぬぬ伊多久久多知奴
  3. 3雲くも雲くもくもににに飛と飛ととぶぶぶ久毛爾得夫
  4. 4藥くすり藥くすりくすりはむはむはむともともとも久須利波武等母
  5. 5またまたまた變を變をお若ち若ちちめめめやもやもやも麻多遠知米也母
  6. 6雲くも雲くもくもににに飛と飛ととぶぶぶ久毛爾得夫848
  7. 7藥くすり藥くすりくすりはむはむはむよよよははは久須利波牟用波
  8. 8都みやこ都みやこみやこ見み見みみばばば美也古彌婆
  9. 9いやしきいやしきいやしき吾あ吾ああががが身み身みみ伊夜之吉阿何微
  10. 10またまたまた變を變をお若ち若ちちぬぬぬべしべしべし麻多越知奴倍之

引用の仕方

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現代語訳

〔847〕私の盛りの年はひどく衰えてしまった。雲に飛ぶという仙薬を飲んでも、また若返ることがあろうか。

〔848〕雲に飛ぶ仙薬を飲むよりは、都を見たならば、いやしい私の身も、また若返るにちがいない。

意訳

梅花の宴の三十二首には入らない「員外」の歌として、旅人が故郷の都を思って詠んだ二首である。老いた自分は、飲めば仙人となって雲に飛べるという仙薬を飲んでも若返りはしないだろうと嘆き、それよりも都を一目見たなら若返るだろうと、望郷の思いを歌っている。

語釈・文法注

文法・本文

員外
定員外。梅花の歌三十二首の外の歌。
雲に飛ぶ藥
飲むと仙人となって雲に乗って飛べるという仙薬。
變若
「をつ」は若返る。

和歌

作者
大伴旅人(665–731)
大伴安麻呂の子で、家持の父。大宰帥として筑紫に赴任し、山上憶良らと筑紫歌壇を形づくった。
出典
『万葉集』巻第五・雑歌・847〜848番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
梅花の宴の後に、員外として大伴旅人が故郷を思って詠んだ歌二首。

修辞

対比
仙薬と都とを対比させ、都の力の方がまさるとする。

解説

神仙思想をふまえながら、それよりも故郷の都こそが若返りの源だとする発想に、旅人の強い望郷の念が表れている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、199頁(コマ103)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、216頁(コマ114)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日