古典ライブラリー

万葉集 巻第五 815〜846番

正月立ち 春の來らば

大伴旅人ほか大宰府の官人(おおとものたびとほか)

天平2年正月十三日、大宰帥大伴旅人の邸に官人たちが集まり、庭の梅を題に一人一首ずつ歌を詠んだ。元号「令和」の典拠となった序をもつ、梅花の宴の歌三十二首。

早春の大宰府の邸の庭に白梅が咲き、官人たちが円座に座って杯を交わし、歌を詠んでいる

題詞梅花の歌三十二首并に序

  1. 1正月むつき正月むつきむつき立た立たたちちち武都紀多知815 大弐紀卿
  2. 2春はる春はるはるののの來きた來きたきたらららばばば波流能吉多良婆
  3. 3斯か斯かかくくくしししこそこそこそ可久斯許曾
  4. 4梅うめ梅うめうめををを折を折をおりりりつつつつつつ烏梅乎乎利都都
  5. 5樂たぬ樂たぬたぬしきしきしき竟を竟ををへへへめめめ多努之岐乎倍米
  6. 6梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈816 少弐小野大夫
  7. 7今いま今いまいま咲さ咲ささけけけるるる如ごと如ごとごと伊麻佐家留期等
  8. 8散ち散ちちりりり過す過すすぎぎぎずずず知利須義受
  9. 9我わ我わわががが家へ家へへののの苑その苑そのそのににに和我覇能會能爾
  10. 10ありありありこせこせこせぬぬぬかもかもかも阿利己世奴加毛
  11. 11梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈817 少弐粟田大夫
  12. 12咲さ咲ささきききたるたるたる苑その苑そのそのののの佐吉多流僧能能
  13. 13青あを青あをあお柳やぎ柳やぎやぎははは阿遠也疑波
  14. 14蘰かづら蘰かづらかずらにににすべくすべくすべく可豆良爾須倍久
  15. 15成な成ななりりりにににけらけらけらずずずややや奈利爾家良受夜
  16. 16春はる春はるはるささされれればばば波流佐禮婆818 筑前守山上大夫
  17. 17先ま先ままづづず咲さ咲ささくくく宿やど宿やどやどののの麻豆佐久耶登能
  18. 18梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈
  19. 19ひとりひとりひとり見み見みみつつつつつつややや比等利美都都夜
  20. 20春はる春はるはる日ひ日ひひ暮く暮くくらさらさらさむむん波流比久良佐武
  21. 21世よ世よよののの中なか中なかなかははは余能奈可波819 豊後守大伴大夫
  22. 22戀こひ戀こひこい繁しげ繁しげしげしししゑやゑやえや古飛斯宜志惠夜
  23. 23斯か斯かかくくくしししあらあらあらばばば加久之阿良婆
  24. 24梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはなにににももも烏梅能波奈爾母
  25. 25成な成なならららましましましものものものををを奈良麻之勿能怨
  26. 26梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈820 筑後守葛井大夫
  27. 27いまいまいま盛さかり盛さかりさかりなりなりなり伊麻佐可利奈理
  28. 28思おも思おもおもふふうどちどちどち意母布度知
  29. 29揷かざ揷かざかざ頭し頭ししににに爲し爲ししてててななな加射之爾斯弖奈
  30. 30今いま今いまいまさかりさかりさかりなりなりなり伊麻佐可利奈理
  31. 31青あを青あをあお柳やなぎ柳やなぎやなぎ阿乎夜奈義821 笠沙弥
  32. 32梅うめ梅うめうめとととののの花はな花はなはなををを烏梅等能波奈乎
  33. 33折を折をおりりりかざしかざしかざし遠理可射之
  34. 34飮の飮ののみみみてててののの後のち後のちのちははは能彌弖能能知波
  35. 35散ち散ちちりりりぬぬぬともともともよしよしよし知利奴得母與斯
  36. 36わわわががが苑その苑そのそのににに和何則能爾822 主人
  37. 37梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな散ち散ちちるるる宇米能波奈知流
  38. 38ひさかたひさかたひさかたののの比佐可多能
  39. 39天あめ天あめあめよりよりより雪ゆき雪ゆきゆきののの阿米欲里由吉能
  40. 40流なが流ながながれれれ來く來くくるるるかもかもかも那何列久流加母
  41. 41梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈823 大監大伴氏百代
  42. 42散ち散ちちらくらくらくははは何處いづく何處いづくいずく知良久波伊豆久
  43. 43しかすがにしかすがにしかすがに志可須我爾
  44. 44此こ此ここののの城き城ききののの山やま山やまやまににに許能紀能夜麻爾
  45. 45雪ゆき雪ゆきゆきははは降ふ降ふふりりりつつつつつつ由企波布理都々
  46. 46梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅乃波奈824 少監阿氏奥島
  47. 47散ち散ちちらららまくまくまく惜を惜をおしみしみしみ知良麻久怨之美
  48. 48吾わ吾わわががが苑その苑そのそのののの和我曾乃乃
  49. 49竹たけ竹たけたけののの林はやし林はやしはやしににに多氣乃波也之爾
  50. 50鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいす鳴な鳴ななくくくももも于具比須奈久母
  51. 51梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈825 少監土氏百村
  52. 52咲さ咲ささきききたるたるたる苑その苑そのそのののの佐岐多流會能能
  53. 53青あを青あをあお柳やぎ柳やぎやぎををを阿乎夜疑遠
  54. 54蘰かづら蘰かづらかずらにににしししつつつつつつ加豆良爾志都都
  55. 55遊あそ遊あそあそびびび暮く暮くくらさらさらさななな阿素毘久良佐奈
  56. 56うちうちうち靡なび靡なびなびくくく有知奈毘久826 大典史氏大原
  57. 57春はる春はるはるののの柳やなぎ柳やなぎやなぎととと波流能也奈宜等
  58. 58吾わ吾わわががが宿やど宿やどやどののの和我夜度能
  59. 59梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはなとととををを烏梅能波奈等遠
  60. 60如何いか如何いかいかにににかかか分わ分わわかかかむむん伊可爾可和可武
  61. 61春はる春はるはるささされれればばば波流佐禮婆827 少典山氏若麻呂
  62. 62木こ木ここ末ぬれ末ぬれぬれ隱がく隱がくがくりりりててて許奴禮我久利弖
  63. 63鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいすぞぞぞ宇具比須曾
  64. 64鳴な鳴ななきききててていぬいぬいぬなるなるなる奈岐弖伊奴奈流
  65. 65梅うめ梅うめうめががが下しづ下しづしず枝え枝ええににに烏梅我志豆延爾
  66. 66人ひと人ひとひと毎ごと毎ごとごとににに比等期等爾828 大判事舟氏麻呂
  67. 67折を折をおりりり揷かざ揷かざかざ頭し頭ししつつつつつつ乎理加射之都都
  68. 68遊あそ遊あそあそべべべどもどもども阿蘇倍等母
  69. 69いやいやいや珍めづら珍めづらめずらしきしきしき伊夜米豆良之岐
  70. 70梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはなかもかもかも烏梅能波奈加母
  71. 71梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈829 薬師張氏福子
  72. 72咲さ咲ささきききててて散ち散ちちりりりなななばばば佐企弖知理奈婆
  73. 73櫻さくら櫻さくらさくら花ばな花ばなばな佐久良婆那
  74. 74繼つ繼つつぎぎぎててて咲さ咲ささくくくべくべくべく都伎弖佐久倍久
  75. 75なりなりなりにににてててあらあらあらずずずややや奈利爾弖阿良受也
  76. 76萬よろづ萬よろづよろず世よ世よよににに萬世爾830 筑前介佐氏子首
  77. 77年とし年としとしははは來き來きき經ふ經ふふともともとも得之波岐布得母
  78. 78梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈
  79. 79絕た絕たたゆるゆるゆることことことなくなくなく多由流己等奈久
  80. 80咲さ咲ささききき渡わた渡わたわたるるるべしべしべし佐吉和多流倍子
  81. 81春はる春はるはるなれなれなればばば波流奈例婆831 壱岐守板氏安麻呂
  82. 82宜うべ宜うべうべももも咲さ咲ささきききたるたるたる宇倍母佐枳多流
  83. 83梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈
  84. 84君きみ君きみきみををを思おも思おもおもふふうととと岐美乎於母布得
  85. 85夜よ夜よよ寐い寐いいももも寢ね寢ねねなくなくなくににに用伊母禰奈久爾
  86. 86梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈832 神司荒氏稲布
  87. 87折を折をおりりりてててかざせかざせかざせるるる乎利弖加射世留
  88. 88諸もろ諸もろもろ人ひと人ひとひとははは母呂比得波
  89. 89今日けふ今日けふきょうののの間あひだ間あひだあいだははは家布能阿比太波
  90. 90樂たぬ樂たぬたぬしくしくしくあるあるあるべしべしべし多努斯久阿流倍斯
  91. 91毎とし毎としとし年の年ののはははににに得志能波爾833 大令史野氏宿奈麻呂
  92. 92春はる春はるはるののの來きた來きたきたらららばばば波流能伎多良婆
  93. 93斯か斯かかくくくしししこそこそこそ可久斯己曾
  94. 94梅うめ梅うめうめををを挿かざ挿かざかざ頭し頭ししててて烏梅乎加射之弖
  95. 95樂たぬ樂たぬたぬしくしくしく飮の飮ののまままめめめ多努志久能麻米
  96. 96梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈834 少令史田氏肥人
  97. 97いまいまいま盛さかり盛さかりさかりなりなりなり伊麻佐加利奈利
  98. 98百もも百もももも鳥どり鳥どりどりののの毛毛等利能
  99. 99聲こゑ聲こゑこえののの戀こほ戀こほこおしきしきしき己惠能古保志枳
  100. 100春はる春はるはる來きた來きたきたるるるらしらしらし波流岐多流良斯
  101. 101春はる春はるはるさらさらさらばばば波流佐良婆835 薬師高氏義通
  102. 102逢あ逢ああははわむむんととと思も思ももひひいししし阿波武等母比之
  103. 103梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈
  104. 104今日けふ今日けふきょうののの遊あそび遊あそびあそびににに家布能阿素毘爾
  105. 105あひあひあい見み見みみつるつるつるかもかもかも阿比美都流可母
  106. 106梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈836 陰陽師礒氏法麻呂
  107. 107手た手たた折を折をおりりり挿かざ挿かざかざ頭し頭ししててて多乎利加射志弖
  108. 108遊あそ遊あそあそべべべどもどもども阿蘇倍等母
  109. 109飽あ飽ああききき足た足たたらららぬぬぬ日ひ日ひひははは阿岐太良奴比波
  110. 110今日けふ今日けふきょうにににしししありありありけりけりけり家布爾志阿利家利
  111. 111春はる春はるはるののの野ぬ野ぬぬににに波流能努爾837 算師志氏大道
  112. 112鳴な鳴ななくくくややや鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいす奈久夜汙隅比須
  113. 113なづけなづけなずけむむんととと奈都氣牟得
  114. 114我わ我わわががが家へ家へへののの苑その苑そのそのににに和何弊能曾能爾
  115. 115梅うめ梅うめうめががが花はな花はなはな咲さ咲ささくくく汙米何波奈佐久
  116. 116梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈838 大隅目榎氏鉢麻呂
  117. 117散ち散ちちりりり亂まが亂まがまがひひいたるたるたる知利麻我比多流
  118. 118岡をか岡をかおか傍び傍びびにににははは乎加肥爾波
  119. 119鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいす鳴な鳴ななくくくももも宇具比須奈久母
  120. 120春はる春はるはる片かた片かたかた設ま設ままけけけててて波流加多麻氣弖
  121. 121春はる春はるはるののの野ぬ野ぬぬににに波流能努爾839 筑前目田氏真人
  122. 122霧きり霧きりきり立た立たたちちち渡わた渡わたわたりりり紀利多知和多利
  123. 123降ふ降ふふるるる雪ゆき雪ゆきゆきととと布流由岐得
  124. 124人ひと人ひとひとののの見み見みみるるるまでまでまで比得能美流麻提
  125. 125梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな散ち散ちちるるる烏梅能波奈知流
  126. 126春はる春はるはる柳やなぎ柳やなぎやなぎ波流楊那宜840 壱岐目村氏彼方
  127. 127蘰かづら蘰かづらかずらににに折を折をおりりりししし可豆良爾乎利志
  128. 128梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈
  129. 129誰たれ誰たれたれかかか浮うか浮うかうかべべべししし多禮可有可倍志
  130. 130酒さか酒さかさか盃づき盃づきずきののの上へ上へへににに佐加豆岐能倍爾
  131. 131鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいすののの于遇比須能841 対馬目高氏老
  132. 132聲おと聲おとおと聞き聞ききくくくなべなべなべににに於登企久奈倍爾
  133. 133梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな烏梅能波奈
  134. 134吾わぎ吾わぎわぎ家へ家へへののの苑その苑そのそのににに和企弊能曾能爾
  135. 135咲さ咲ささきききててて散ち散ちちるるる見み見みみゆゆゆ佐伎弖知留美由
  136. 136我わ我わわががが宿やど宿やどやどののの和我夜度能842 薩摩目高氏海人
  137. 137梅うめ梅うめうめののの下しづ下しづしず枝え枝ええににに烏梅能之豆延爾
  138. 138遊あそ遊あそあそびびびつつつつつつ阿蘇毘都都
  139. 139鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいす鳴な鳴ななくくくももも宇具比須奈久毛
  140. 140散ち散ちちらららまくまくまく惜を惜をおしみしみしみ知良麻久乎之美
  141. 141梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはな宇梅能波奈843 土師氏御道
  142. 142折を折をおりりり挿かざ挿かざかざ頭し頭ししつつつつつつ乎理加射之都都
  143. 143諸もろ諸もろもろ人ひと人ひとひとののの毛呂比登能
  144. 144遊あそ遊あそあそぶぶぶををを見み見みみれれればばば阿蘇夫遠美禮婆
  145. 145都みやこ都みやこみやこしししぞぞぞ思も思ももふふう彌夜古之叙毛布
  146. 146妹いも妹いもいもががが家へ家へへににに伊母我陛邇844 小野氏国堅
  147. 147雪ゆき雪ゆきゆきかもかもかも降ふ降ふふるるるととと由岐可母不流登
  148. 148見み見みみるるるまでまでまでににに彌流麻提爾
  149. 149許多ここだ許多ここだここだももも亂まが亂まがまがふふう許許陀母麻我不
  150. 150梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはなかもかもかも烏梅能波奈可毛
  151. 151鶯うぐひす鶯うぐひすうぐいすののの宇具比須能845 筑前掾門氏石足
  152. 152待ま待ままちちち難かて難かてかてにににせせせししし麻知迦弖爾勢斯
  153. 153梅うめ梅うめうめががが花はな花はなはな宇米我波奈
  154. 154散ち散ちちらららずずずありありありこそこそこそ知良須阿利許曾
  155. 155思おも思おもおもふふう子こ子ここががが爲ため爲ためため意母布故我多米
  156. 156霞かすみ霞かすみかすみ立た立たたつつつ可須美多都846 小野氏淡理
  157. 157長なが長ながながききき春はる春はるはる日ひ日ひひををを那我岐波流卑乎
  158. 158挿かざ挿かざかざ頭せ頭せせれれれどどど可謝勢例杼
  159. 159いやいやいや懷なつ懷なつなつかしきかしきかしき伊野那都可子岐
  160. 160梅うめ梅うめうめののの花はな花はなはなかもかもかも烏梅能波那可毛

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔815〕正月になって春がやって来たら、このように梅を折りながら、楽しさの限りを尽くそう。

〔816〕梅の花よ、今咲いているように散り過ぎずに、わが家の庭に咲いていてくれないものか。

〔817〕梅の花の咲いている庭の青柳は、髪飾りにできるほどに伸びたではないか。

〔818〕春になると真っ先に咲く家の梅の花を、ひとりで見ながら春の日を暮らすことだろうか。

〔819〕世の中は恋が多くてつらい。ええ、こんなことなら、梅の花にでもなりたいものだ。

〔820〕梅の花は今が盛りだ。気の合った者どうし、髪に挿そうではないか。今が盛りだ。

〔821〕青柳と梅の花とを折って髪に挿し、飲んだ後なら、散ってしまってもかまわない。

〔822〕わが家の庭に梅の花が散る。(ひさかたの)天から雪が流れて来るのだろうか。

〔823〕梅の花が散るというのはどこのことか。そうはいっても、この城の山には雪が降り続いている。

〔824〕梅の花が散るのを惜しんで、わが家の庭の竹の林で、鶯が鳴いている。

〔825〕梅の花の咲いている庭の青柳を、髪飾りにしながら遊び暮らそう。

〔826〕(うち靡く)春の柳とわが家の梅の花とを、どのように見分けたらよいだろう。

〔827〕春になると、梢に隠れて鶯が鳴いて移っていく。梅の下枝に。

〔828〕人ごとに折って髪に挿しながら遊ぶけれど、いよいよ心ひかれる梅の花であることよ。

〔829〕梅の花が咲いて散ってしまったら、続いて桜の花が咲くようになっているではないか。

〔830〕いつの世までも年はめぐって来ようとも、梅の花は絶えることなく咲き続けるだろう。

〔831〕春になったので、なるほどよく咲いた梅の花よ。君を思って夜もよく眠れないことだ。

〔832〕梅の花を折って髪に挿している人々は、今日の一日は楽しくあるに違いない。

〔833〕毎年、春が来たら、このように梅を髪に挿して、楽しく酒を飲もう。

〔834〕梅の花は今が盛りだ。たくさんの鳥の声が恋しい春がやって来たらしい。

〔835〕春になったら逢おうと思っていた梅の花に、今日の宴で逢えたことだ。

〔836〕梅の花を手折って髪に挿して遊ぶけれど、飽き足りない日は、今日であったなあ。

〔837〕春の野で鳴く鶯を手なずけようと、わが家の庭に梅の花が咲く。

〔838〕梅の花の散り乱れる岡のあたりでは、鶯が鳴いている。春を待ちかねて。

〔839〕春の野に霧が立ちこめて、降る雪かと人が見るほどに、梅の花が散る。

〔840〕春の柳の髪飾りにと折った梅の花を、誰が浮かべたのか、酒杯の上に。

〔841〕鶯の声を聞くにつれて、梅の花がわが家の庭に咲いては散るのが見える。

〔842〕わが家の梅の下枝で遊びながら、鶯が鳴いている。花の散るのを惜しんで。

〔843〕梅の花を折って髪に挿しながら人々の遊ぶのを見ると、都のことが思われる。

〔844〕妻の家に雪が降るのかと見えるほどに、ひどく散り乱れる梅の花であることよ。

〔845〕鶯が待ちかねていた梅の花よ、散らずにいてほしい。思う人のために。

〔846〕霞の立つ長い春の日を髪に挿しているけれど、いよいよ心ひかれる梅の花であることよ。

意訳

天平2年(730)正月十三日、大宰帥の大伴旅人の邸で梅花の宴が催された。序には「時に初春の令月、気淑く風和らぐ」とあり、この一節が令和の元号の典拠となった。集まった三十二人の官人は、庭に咲く梅を題に、一人一首ずつ歌を詠んだ。春の訪れを喜ぶ歌、梅の散るのを雪にたとえる歌、梅と柳を髪飾りにして楽しむ歌、遠い都を思う歌など、それぞれの思いが梅に託されている。主人の旅人は822番で、散る梅の花を天から流れて来る雪に見立てている。中国の詩宴にならった、筑紫歌壇の最も華やかな催しであった。

語釈・文法注

文法・本文

樂しき竟へめ
「をふ」は終える、尽くす。楽しさを尽くそう。
ありこせぬかも
「こせ」は願望。あってくれないものか。
戀繁しゑや
恋の苦しみが多い、ええ。
春片設けて
「かたまく」は時を待ち受ける。

和歌

作者
大伴旅人ほか大宰府の官人(天平2年(730))
主人の大伴旅人をはじめ、大弐紀男人、少弐小野老、筑前守山上憶良、沙弥満誓ら、大宰府と九州諸国の官人三十二人。
出典
『万葉集』巻第五・雑歌・815〜846番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
天平2年(730)正月十三日、大宰帥大伴旅人の邸で開かれた梅花の宴での歌三十二首。漢文の序がある。

修辞

見立て
822・839・844番で、散る梅の花を雪に見立てる。

解説

梅は当時、中国から渡来した新しい花で、漢詩文の教養をもつ人々に好まれた。この宴は中国の王羲之の蘭亭の宴などにならったものとされ、序も漢文の名文として名高い。令和の元号は、この序の「初春令月、気淑風和」からとられた。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、197頁(コマ102)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、210頁(コマ111)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日