万葉集 巻第三 305番
斯く故に
こうなるから見まいと言っていたのに、ささなみの古い都をむやみに見せて。荒れはてた近江の旧都を見て、黒人が悲しみを訴えた歌。
場面イラスト(準備中)
題詞高市連黒人の近江の舊都の歌一首
現代語訳
こうなるから見まいと言っていたのに、ささなみの古い都を、むやみに見せて。
意訳
天智天皇の近江大津宮は、壬申の乱の後に廃墟となった。荒れはてた都の跡を見れば悲しくなるのはわかっていたから、見まいと言っていたのに、と黒人は嘆く。誰が見せたのかは言わないが、案内した人か、あるいは運命そのものへの恨み言のようにも聞こえる。
語釈・文法注
文法・本文
- もとな
- むやみに、わけもなく。
- 見せつつもとな
- 「もとな」で言いさして、恨みの気持ちを残す。
和歌
- 作者
- 高市黒人(生没年未詳)
持統・文武天皇の時代の歌人。旅の歌を多く残し、叙景歌の先駆けとされる。 - 出典
- 『万葉集』巻第三・雑歌・305番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 高市黒人が、荒れはてた近江の旧都(大津宮の跡)を見て詠んだ歌。
解説
近江荒都を詠んだ歌は、人麻呂の長歌(巻第一の29〜31番)や黒人の32・33番などがある。この歌は、見たくなかったのに見てしまったという屈折した表現で、悲しみの深さを伝えている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、100頁(コマ54)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、100頁(コマ56)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日