古典ライブラリー

万葉集 巻第三 267番

鼯鼠は

志貴皇子(しきのみこ)

むささびは、梢を求めて木を登っていったところで、山の猟師に出くわしてしまったことだ。高い所を求めて身を滅ぼすことへの戒めとも読まれる、志貴皇子の寓意的な歌。

月夜の山中で、高い木の梢へ駆け上るむささびを、木の下から猟師が弓で狙っている

題詞志貴皇子の御歌一首

  1. 1鼯鼠むささび鼯鼠むささびむささびははは牟佐佐婢波
  2. 2木こ木ここ末ぬれ末ぬれぬれ求もと求もともとむむむととと木末求跡
  3. 3あしひきあしひきあしひきののの足日木乃
  4. 4山やま山やまやまののの獵さつ獵さつさつ夫を夫をおににに山能佐都雄爾
  5. 5あひあひあいにににけるけるけるかもかもかも相爾來鴨

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

むささびは、梢を求めて木に登ろうとして、(あしひきの)山の猟師に出くわしてしまったことだ。

意訳

むささびは、高い梢から梢へ滑空する動物である。高い所を目ざして登っていったところを、待ちかまえていた猟師に捕らえられてしまった。表面は山の出来事を歌っているが、高い地位を求めて身を滅ぼした人への戒めを込めたものと読む説が多い。天武天皇の系統が力を持った時代に、天智天皇の皇子として慎重に生きた志貴皇子の処世観がうかがえる。

語釈・文法注

文法・本文

木末
「こぬれ」は「木の末(うれ)」のつづまった形。梢。

和歌

作者
志貴皇子(?–716)
天智天皇の皇子。皇位争いから離れて過ごした。子の白壁王が光仁天皇となった。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・267番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
志貴皇子の歌。

修辞

寓意
むささびが梢を求めて猟師に捕らえられる姿に、高い地位を求めて滅びる人を重ねるとみる説がある。

解説

大津皇子の謀反事件や長屋王の変などを念頭に置いて、具体的な人物を風刺したとみる説もあるが、確かなことはわからない。自然の一場面を描きながら、人の世への鋭い観察を感じさせる歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、96頁(コマ52)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、95頁(コマ53)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日