古典ライブラリー

万葉集 巻第三 268番

吾背子が 古家の里の

長屋王(ながやのおおきみ)

あなたの旧宅のある明日香の里では、千鳥が鳴いている。あなたを待ちかねて。都が藤原宮へ移った後の、さびれた明日香を詠んだ長屋王の歌。

人の去った明日香の古い屋敷のそばの川原で、千鳥が鳴きながら飛び交っている

題詞長屋王の故鄕の歌一首

  1. 1吾わが吾わがわが背せ背せせ子こ子ここががが吾背子我
  2. 2古ふる古ふるふる家いへ家いへいえののの里さと里さとさとののの古家乃里之
  3. 3明日香あすか明日香あすかあすかにににははは明日香庭
  4. 4千ち千ちち鳥どり鳥どりどり鳴な鳴ななくくくなりなりなり乳鳥鳴成
  5. 5君きみ君きみきみ待ま待ままちちちかねかねかねててて君待不得而

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

あなたの旧宅のある明日香の里では、千鳥が鳴いている。あなたを待ちかねて。

意訳

都が明日香から藤原宮に移ると、明日香の古い屋敷はさびれていった。長屋王は、もとの家に住んでいた親しい人に、明日香では千鳥があなたを待ちかねて鳴いていますよと呼びかける。千鳥の声に、去っていった人を恋しく思う気持ちを託している。

語釈・文法注

文法・本文

鳴くなり
「なり」は音や声によって判断する伝聞・推定。鳴いているのが聞こえる。

和歌

作者
長屋王(684–729)
天武天皇の孫で、高市皇子の子。左大臣として政権を担ったが、謀反の疑いをかけられて自害した(長屋王の変)。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・268番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
長屋王が、旧都明日香を思って詠んだ歌。

修辞

擬人法
千鳥が「君待ちかねて」鳴いていると、鳥に人の心を持たせる。

解説

長屋王は奈良時代初めの政界の中心人物で、その邸宅跡からは多数の木簡が出土している。この歌は若いころの作とみられ、旧都をしのぶ穏やかな情趣にあふれている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、96頁(コマ52)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、95頁(コマ53)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日