新古今和歌集 巻第一 春歌上 62番
歸る雁
北へ帰る雁よ、今はもうこれまでと思い切る心があるのだろうが、有明の月と花の名が惜しまれることだ。

現代語訳
〔詞書〕百首歌を献上した時の歌。
北へ帰る雁よ、今はもうこれまでと思い切る心があるのだろうが、有明の月と花の名が惜しまれることだ。
意訳
雁は今こそ帰る時だと決心して、有明の空を飛び去っていく。だが、月も花も美しいこの春を見捨てて去るのでは、月と花の名誉が傷つくのが惜しい。春の美しさを捨てて去る雁を惜しむ。
語釈・文法注
- 今はの心
- 今はもうこれまでと思う心。
- ありあけ
- 「(心が)あり」と「有明」の掛詞。
- 名こそ惜しけれ
- 名誉が惜しまれる。「こそ」の結びで已然形。
和歌
- 作者
- 藤原良経(後京極摂政)(ふじわらのよしつね) 1169–1206
九条兼実の子。摂政・太政大臣に至った。『新古今和歌集』の仮名序を書き、和歌所の寄人の筆頭として撰集を主導した。叔父の慈円や藤原定家ら御子左家の歌人を庇護し、清新で格調の高い歌を詠んだ。書にもすぐれ、後京極流の祖とされる。『新古今和歌集』に七十九首が入る。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・62番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「百首の歌奉りしとき」(百首歌を献上した時の歌)。
修辞
- 掛詞
- 「ありあけ」に「(今はの心)あり」と「有明」を掛ける。
- 係り結び
- 係り結び。
解説
正治二年(1200)の百首歌での作。良経らしい知的な構成の歌。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、12頁(コマ16)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日