新古今和歌集 巻第一 春歌上 61番
忘るなよ
忘れるなよ。田の面の沢を飛び立っていく雁も、稲葉を吹く風の、あの秋の夕暮れのことを。

現代語訳
〔詞書〕「帰雁(北へ帰る雁)」という題で。
忘れるなよ。田の面の沢を飛び立っていく雁も、稲葉を吹く風の、あの秋の夕暮れのことを。
意訳
春になって田の面の沢から北へ帰っていく雁よ。お前が秋に初めてやって来た時の、稲葉を風が吹きわたる夕暮れの景色を、忘れないでいてくれ。また秋に戻ってきてほしいという願いをこめる。
語釈・文法注
- 田の面
- 田のおもて。田の表面。底本は「田の面(たのも)」とする。
- 稲葉の風
- 稲の葉を吹きわたる秋風。
和歌
- 作者
- 藤原良経(後京極摂政)(ふじわらのよしつね) 1169–1206
九条兼実の子。摂政・太政大臣に至った。『新古今和歌集』の仮名序を書き、和歌所の寄人の筆頭として撰集を主導した。叔父の慈円や藤原定家ら御子左家の歌人を庇護し、清新で格調の高い歌を詠んだ。書にもすぐれ、後京極流の祖とされる。『新古今和歌集』に七十九首が入る。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・61番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「歸雁を」(「帰雁(北へ帰る雁)」という題で)。
修辞
- 体言止め
- 「秋の夕ぐれ」。
解説
良経の歌。春の帰雁の歌に、秋の初雁の季節を呼び起こす、時間の広がりのある構成をとる。底本は第二句を「田の面の澤を」とするが、「たのむの澤を」とする本もある。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、12頁(コマ16)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日