新古今和歌集 巻第一 春歌上 58番
今はとて
今はもう北へ帰る時だと、田の面にいた雁も心細げに鳴いている。おぼろ月夜の明け方の空に。

現代語訳
〔詞書〕摂政太政大臣(良経)の家の百首歌合で詠んだ歌。
今はもう北へ帰る時だと、田の面にいた雁も心細げに鳴いている。おぼろ月夜の明け方の空に。
意訳
春になり、北へ帰ろうとする雁たちが、田の面で心細げに鳴いている。おぼろ月の残る夜明けの空の下、去っていく雁の悲しみと、春の明け方の情趣が重なり合う。
語釈・文法注
- 今はとて
- 今はもうこれまでと。別れの時を表す。
- たのむの雁
- 田の面(たのも)にいる雁。「たのむ」は田の面の意。「頼む」を響かせる。
- うち佗びぬ
- 心細く思って嘆いた。
和歌
- 作者
- 寂蓮法師(じゃくれんほうし) 1139?–1202
俗名は藤原定長。藤原俊成の甥で養子となったが、定家が生まれると出家した。『新古今和歌集』の撰者に選ばれたが、完成前に没した。「三夕の歌」の一首「さびしさはその色としもなかりけり」で知られる。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・58番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「攝政太政大臣の家の百首の歌合に」(摂政太政大臣(良経)の家の百首歌合で詠んだ歌)。
修辞
- 本歌取り
- 『伊勢物語』第十段の「みよし野のたのむの雁もひたぶるに君が方にぞよると鳴くなる」をふまえる。
- 体言止め
- 体言止め。
解説
六百番歌合での作。寂蓮は俊成の甥で、撰者に選ばれながら完成前に没した。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、11頁(コマ15)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日