新古今和歌集 巻第一 春歌上 55番
照りもせず
明るく照るのでもなく、すっかり曇ってしまうのでもない、春の夜のおぼろ月夜に及ぶものはない。

現代語訳
〔詞書〕『白氏文集』の「嘉陵春夜詩」の一節、「明らかならず暗からず、朧々たる月」を詠みました歌。
明るく照るのでもなく、すっかり曇ってしまうのでもない、春の夜のおぼろ月夜に及ぶものはない。
意訳
はっきりと照ってもいないし、すっかり曇ってもいない。そんな春の夜のぼんやりとかすんだ月夜ほど、すばらしいものはない。春の夜の朧月の美しさを、漢詩の一節を和歌に移しかえて詠む。
語釈・文法注
- 文集
- 唐の白居易(白楽天)の詩文集『白氏文集』。平安時代の貴族に広く愛読された。
- 曇りもはてぬ
- すっかり曇ってしまうのでもない。
- しくものぞなき
- 「しく」は及ぶ、匹敵する。及ぶものはない。
和歌
- 作者
- 大江千里(おおえのちさと) 生没年未詳(九世紀後半〜十世紀初め)
参議大江音人の子。漢学に通じ、寛平六年(894)に、漢詩の句を題にして和歌を詠んだ『句題和歌(大江千里集)』を宇多天皇に献上した。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・55番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「文集嘉陵春夜詩に不明不暗朧々月といへることをよみ侍りける」(『白氏文集』の「嘉陵春夜詩」の一節、「明らかならず暗からず、朧々たる月」を詠みました歌)。
解説
大江千里の『句題和歌』(894年)の歌。『源氏物語』の「花宴」の巻で、朧月夜の君がこの歌を口ずさむ場面があり、よく知られた歌だった。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、10頁(コマ15)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日