新古今和歌集 巻第一 春歌上 38番
春の夜の
春の夜の、浮橋のようにはかない夢がとぎれて、目を覚ますと、峰から別れていく横雲の空が見える。

現代語訳
〔詞書〕守覚法親王が五十首歌を詠ませました時の歌。
春の夜の、浮橋のようにはかない夢がとぎれて、目を覚ますと、峰から別れていく横雲の空が見える。
意訳
春の短い夜に見ていたはかない夢が、ふととぎれた。目を覚ますと、明け方の空では、横にたなびく雲が山の峰から離れていくところだった。夢から覚めた名残の心と、別れていく雲の姿を重ね、男女の別れをも思わせる。
語釈・文法注
- 夢の浮橋
- 浮橋は水に舟を並べて板を渡した橋。夢のはかなさを、不安定な浮橋にたとえる。『源氏物語』最後の巻の名でもある。
- とだえして
- とぎれて。
- 峰にわかるゝ
- 峰から離れていく。
和歌
- 作者
- 藤原定家(ふじわらのさだいえ(ていか)) 1162–1241
藤原俊成の子。『新古今和歌集』の撰者の一人で、のち『新勅撰和歌集』を単独で撰び、『小倉百人一首』を選んだとされる。妖艶・有心の美を追求した新古今時代の代表的歌人。日記『明月記』、歌論書『近代秀歌』『毎月抄』がある。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・38番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「守覺法親王、五十首の歌よませ侍りけるに」(守覚法親王が五十首歌を詠ませました時の歌)。
修辞
- 体言止め
- 「横雲の空」。
- 本歌取り
- 『古今和歌集』の「風吹けば峰にわかるる白雲のたえてつれなき君が心か」(壬生忠岑)をふまえる。
解説
藤原定家の代表作で、新古今調の妖艶な美を示す歌として名高い。『源氏物語』の「夢の浮橋」や、雲と別れる男女の伝説などが重ねられ、ことばの連想が幾重にも広がる。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、7頁(コマ13)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日