新古今和歌集 巻第一 春歌上 4番
かきくらし
空を暗くしてなお降る、古い里の雪の中に、人の足跡こそ見えないけれど、春はやって来たのだった。

現代語訳
〔詞書〕五十首歌を献上した時の歌。
空を暗くしてなお降る、古い里の雪の中に、人の足跡こそ見えないけれど、春はやって来たのだった。
意訳
あたりを暗くして雪がしきりに降る古い里では、人の訪れた跡もない。それでも暦の上では確かに春が来ている。目に見える春のしるしのないまま、季節だけが移ったことを、雪に閉ざされた静けさの中で感じている。
語釈・文法注
- かきくらし
- 空を暗くして。「かき」は接頭語。
- ふる
- 雪が「降る」と「古(ふる)里」の掛詞。
- 見えね
- 「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形で、係助詞「こそ」の結び。逆接で下に続く。
和歌
- 作者
- 宮内卿(くないきょう) 生没年未詳(十二世紀末〜十三世紀初め)
源師光の娘。後鳥羽院に仕えた女房で、若くして歌才を認められ、千五百番歌合などで活躍したが、二十歳前後で亡くなったと伝えられる。「若草の宮内卿」と呼ばれた。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・4番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「五十首の歌奉りし時」(五十首歌を献上した時の歌)。
修辞
- 掛詞
- 「ふる」に「(雪が)降る」と「古(里)」を掛ける。
- 係り結び
- 「跡こそ見えね」。
解説
作者の宮内卿は若くして才能を認められた女房歌人。「跡こそ見えね」と、春の訪れを足跡に見立てる発想に、新古今時代らしい理知と余情がある。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、1頁(コマ10)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日