新古今和歌集 巻第一 春歌上 3番
山ふかみ
山が深いので春が来たとも知らない松の戸に、とぎれとぎれに落ちかかる、雪どけの玉のような雫よ。

現代語訳
〔詞書〕百首歌を献上した時の、春の歌。
山が深いので春が来たとも知らない松の戸に、とぎれとぎれに落ちかかる、雪どけの玉のような雫よ。
意訳
山深い庵では、春が来たことにもまだ気づかない。けれども、戸口に雪どけの雫が玉のように落ちる音が、ひそかに春の訪れを告げている。隠れ住む人の静かな日々に、かすかな季節の変化を聞き取る。
語釈・文法注
- 山ふかみ
- 「名詞+形容詞の語幹+み」で原因・理由を表す。山が深いので。
- 松の戶
- 松の木で作った粗末な戸。山中の庵を表す。「松」に「待つ」を響かせるとする説もある。
- 雪の玉水
- 雪どけの水が玉のように滴るもの。
和歌
- 作者
- 式子内親王(しょくしないしんのう) ?–1201
後白河天皇の皇女。賀茂の斎院を務めた。藤原俊成に和歌を学び、内に秘めた激しい情を静かな調べで詠んだ。『新古今和歌集』に女性歌人として最も多い四十九首が入る。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻第一・春歌上・3番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「百首の歌奉りし時、春の歌」(百首歌を献上した時の、春の歌)。
修辞
- 体言止め
- 「雪の玉水」と名詞で結び、余情を残す。
解説
正治二年(1200)の後鳥羽院初度百首での作。春の到来を視覚ではなく音でとらえ、山家の閑寂な趣を描いた。式子内親王の代表作の一つとされる。
関連
出典
- 底本
- 『新古今集』 短歌雑誌社編輯部校訂、紅玉堂書店、大正15年(1926)、1頁(コマ10)。流布本を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日