万葉集 巻第二十 4334〜4336番
海原を 遠く渡りて
天平勝宝7年2月9日、大伴家持が防人の心を思いやって詠んだ歌三首。海原を遠く渡って年月がたっても、妻が結んでくれた紐を決して解くなという歌、今交替する新しい防人が船出する海原に、波よ立たないでくれという歌、防人が堀江を漕ぎ出る伊豆手舟の楫を取る間もないほど、恋しさは絶え間ないだろうという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(九日、大伴宿禰家持の作れる歌三首)
- 1海原海原うなはらををを海原乎4334
- 2遠遠とおくくく渡渡わたりりりててて等保久和多里弖
- 3年年とし經經ふともともとも等之布等母
- 4兒兒こらららががが結結むすべべべるるる兒良我牟須敝流
- 5紐紐ひも解解とくくくなななゆめゆめゆめ比毛等久奈由米
- 6今今いま替替かわるるる今替4335
- 7新新にい防人防人さきもりががが爾比佐伎母利我
- 8船船ふな出出でするするする布奈弖須流
- 9海原海原うなはらのののうへうへうえににに宇奈波良乃宇倍爾
- 10浪浪なみななな開開さきききそそそねねね奈美那佐伎曾禰
- 11防人防人さきもりののの佐吉母利能4336
- 12堀江堀江ほりえ漕漕こぎぎぎ出出ずるるる保里江己藝豆流
- 13伊豆手伊豆手いずて舟舟ぶね伊豆手夫禰
- 14楫楫かじ取取とるるる間間まなくなくなく可治等流間奈久
- 15戀戀こいははは繁繁しげけけけむむん戀波思氣家牟
現代語訳
〔4334〕海原を遠く渡って年月がたっても、妻が結んでくれた紐を、決して解くなよ。
〔4335〕今交替する新しい防人が船出する海原の上に、波よ立たないでくれ。
〔4336〕防人が堀江を漕ぎ出る伊豆手舟の楫を取る間もないほど、絶え間なく恋しさはつのるだろう。
意訳
前日の長歌に続けて、防人の心を思いやった歌である。妻の結んだ紐への誠、船出の無事、絶え間ない恋しさを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 紐解くなゆめ
- 決して紐を解くな。妻への貞節を表す。
- 浪な開きそね
- 波よ立たないでくれ。
- 伊豆手舟
- 伊豆で造られた型の船。
和歌
- 作者
- 大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。 - 出典
- 『万葉集』巻第二十・部立なし・4334〜4336番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝7年2月9日、兵部少輔大伴家持が防人の心を思いやって詠んだ歌。
修辞
- 序詞
- 4336番の「防人の堀江漕ぎ出る伊豆手舟楫取る」が「間なく」を導く。
解説
難波の堀江から防人の船が出航した。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、723頁(コマ154)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、851頁(コマ189)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日