万葉集 巻第十九 4180〜4183番
春過ぎて 夏來向へば
天平勝宝2年4月、越中守大伴家持が、ほととぎすを愛する心を詠んだ長歌と反歌三首。春が過ぎて夏が来ると、山を呼び響かせて夜中に鳴くほととぎすの初声を聞けば慕わしい、菖蒲や花橘を髪に挿す五月まで里中に鳴き渡るけれども、やはり賞美せずにはいられないと詠む長歌と、夜が更けて明け方の月に姿を見せて鳴くほととぎすの声は慕わしいという歌、聞いても飽きないので網で捕らえて手なずけよう、離れずに鳴くようにという歌、ほととぎすを飼い通したら、年を越して来る夏にはまっさきに鳴くだろうにという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞霍公鳥を感づる情に飽かず、懷を述べて作れる歌一首并に短歌
- 1春春はる過過すぎぎぎててて夏夏なつ來來き向向むかへへえばばば春過而 夏來向者長歌
- 2あしひきあしひきあしひきののの山山やまよびよびよび響響とよめめめ足檜木乃 山呼等余米
- 3さささ夜夜よ中中なかににに鳴鳴なくくくほととぎすほととぎすほととぎす左夜中爾 鳴霍公鳥
- 4初初はつ聲聲こえををを聞聞きけけけばばば懷懷なつかしかしかし始音乎 聞婆奈都可之
- 5菖蒲菖蒲あやめぐさ花花はな橘橘たちばなををを昌蒲 花橘乎
- 6貫貫ぬききき交交まじへへえ蘰蘰かずらくくくまでまでまでににに貫交 可頭良久麻而爾
- 7里里さと響響とよめめめ喧喧なききき渡渡わたれれれどもどもども尚尚なおししししぬばゆしぬばゆしぬばゆ里響 喧渡禮騰母 尚之努波由
- 8さささ夜夜よふけふけふけててて左夜深而反歌
- 9曉曉あかとき月月づきににに曉月爾
- 10影影かげ見見みえええててて影所見而
- 11喧喧なくくくほととぎすほととぎすほととぎす喧霍公鳥
- 12聞聞きけけけばばばなつかしなつかしなつかし聞者夏借
- 13ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥反歌
- 14聞聞きけけけどもどもども飽飽あかかかずずず雖聞不足
- 15網網あみ取取とりりりににに網取爾
- 16獲獲とりりりててて懷懷なつけけけななな獲而奈都氣奈
- 17離離かれれれずずず鳴鳴なくくくがねがねがね可禮受鳴金
- 18ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥反歌
- 19飼飼かひひい通通とおせせせらららばばば飼通良婆
- 20今年今年ことし經經へててて今年經而
- 21來來き向向むかふふう夏夏なつははは來向夏波
- 22先先まづづず喧喧なきききなななむむんををを麻豆將喧乎
現代語訳
〔4180〕春が過ぎて夏がやって来ると、(あしひきの)山を呼び響かせて、夜中に鳴くほととぎすの初声を聞くと慕わしい。菖蒲草や花橘を緒に通し交えて髪飾りにする五月まで、里を響かせて鳴き渡るけれども、それでもやはり心ひかれる。
〔4181〕夜が更けて、明け方の月に姿を見せて鳴くほととぎすの声は、聞くと慕わしい。
〔4182〕ほととぎすの声は聞いても飽きない。網で捕らえて手なずけよう。離れずに鳴いてくれるように。
〔4183〕ほととぎすを飼い通したならば、今年を越して来る夏には、まっさきに鳴くだろうに。
意訳
ほととぎすへの愛着を尽くして詠んだ歌である。夜中の初声、五月まで里を響かせる声を聞き飽きないと述べ、反歌では、捕らえて飼い慣らしたい、そうすれば来年の夏には真っ先に鳴いてくれるだろうと、ほととぎすを独り占めしたい思いを戯れて詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 山よび響め
- 山を呼び響かせて。
- 尚ししぬばゆ
- それでもやはり心ひかれる。
- 曉月
- 「あかときづき」。明け方の月。
- 網取り
- 網で捕らえること。
- 懷けな
- 手なずけよう。
- 離れず鳴くがね
- 離れずに鳴くように。
- 飼ひ通せらば
- 飼い続けたならば。
和歌
- 作者
- 大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。 - 出典
- 『万葉集』巻第十九・部立なし・4180〜4183番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平勝宝2年4月、越中守大伴家持がほととぎすを詠んだ歌。
修辞
- 諧謔
- ほととぎすを飼いたいと戯れる。
解説
家持の歌にはほととぎすを詠んだものが際立って多い。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、684頁(コマ135)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、807頁(コマ167)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日