古典ライブラリー

万葉集 巻第十九 4148〜4149番

椙の野に さ躍る雉

大伴家持(おおとものやかもち)

天平勝宝2年3月3日の明け方、大伴家持が雉の鳴く声を聞いて詠んだ歌二首。杉の野で跳ね回る雉がはっきりと声を上げて鳴くように、私も声を上げて泣こうか、人目を忍ぶ妻のためにという歌と、山の峰々の雉が鳴き響く夜明けの霞を見ると悲しいという歌。

明け方の霞の中、杉の野で鳴く雉

題詞曉に鳴く雉を聞く歌二首

  1. 1椙すぎ椙すぎすぎののの野の野ののににに椙野爾4148
  2. 2さささ躍をど躍をどおどるるる雉きぎし雉きぎしきぎし左乎騰流雉
  3. 3いちじろくいちじろくいちじろく灼然
  4. 4啼ね啼ねねにににしもしもしも哭な哭ななかかかむむん啼爾之毛將哭
  5. 5隱妻こもりづま隱妻こもりづまこもりづまかもかもかも己母利豆麻可母
  6. 6あしひきあしひきあしひきののの足引之4149
  7. 7八峯やつを八峯やつをやつおののの雉きぎし雉きぎしきぎし八峯之雉
  8. 8なきなきなき響とよ響とよとよむむむ鳴響
  9. 9朝あさ朝あさあさけけけののの霞かすみ霞かすみかすみ朝開之霞
  10. 10見み見みみれれればばばかなしかなしかなしももも見者可奈之母

引用の仕方

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現代語訳

〔4148〕杉の野で跳ね回る雉が、はっきりと声を上げて鳴くように、声を上げて泣こうというのか、人目を忍ぶ妻のために。

〔4149〕(あしひきの)山の峰々の雉が鳴き響かせる、夜明けの霞を見ると、悲しいことだ。

意訳

明け方に雉の鳴く声を聞いて、妻を慕って鳴く雉に自らの思いを重ね、霞の立つ夜明けの景色に春の愁いを感じた歌である。

語釈・文法注

文法・本文

椙
「すぎ」。杉。
さ躍る
「さをどる」。跳ね回る。
雉
「きぎし」。きじ。
いちじろく
はっきりと。
隱妻
「こもりづま」。人目を忍ぶ妻。
八峯
「やつを」。多くの峰。
朝け
夜明け。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第十九・部立なし・4148〜4149番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平勝宝2年3月3日の明け方、越中守大伴家持が雉の声を聞いて詠んだ歌。

修辞

序詞
4148番の「椙の野にさ躍る雉」が「いちじろく啼に」を導く。

解説

雉は妻を求めて鳴く鳥として歌われた。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、678頁(コマ132)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、800頁(コマ164)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日