古典ライブラリー

万葉集 巻第十八 4082〜4084番

天ざかる 鄙の奴に

大伴家持(おおとものやかもち)

天平感宝元年(749年)5月4日、大伴家持が坂上郎女の歌に答え、思いを添えて都へ贈った歌三首。鄙にいる卑しい私に、天上の人のような方がこれほど恋してくださるなら生きている甲斐があるという歌、いつもの恋しさもまだ止まないのに、都から馬に積んだ恋が来たら担いきれるだろうかという歌、明け方に名を告げて鳴くほととぎすは、いっそう愛しく思われるという歌。

明け方の空に、名を告げて鳴くほととぎす

題詞越中守大伴宿禰家持の報ふる歌、并に所心三首

  1. 1天あま天あまあまざかるざかるざかる安萬射可流4082
  2. 2鄙ひな鄙ひなひなののの奴やつこ奴やつこやつこににに比奈能夜都故爾
  3. 3天あめ天あめあめ人ひと人ひとひとししし安米比度之
  4. 4斯か斯かかくくく戀こ戀ここひひいすらすらすらばばば可久古非須良波
  5. 5生い生いいけけけるるるしるししるししるしありありあり伊家流思留事安里
  6. 6常つね常つねつねののの戀こひ戀こひこい都禰能孤悲4083
  7. 7いまだいまだいまだ止や止ややまままぬぬぬににに伊麻太夜麻奴爾
  8. 8都みやこ都みやこみやこよりよりより美夜古欲利
  9. 9馬うま馬うまうまにににこひこひこい來こ來ここばばば宇麻爾古非許婆
  10. 10荷にな荷になになひひい堪あ堪ああへへえむむんかもかもかも爾奈比安倍牟可母
  11. 11曉あかとき曉あかときあかときににに安可登吉爾4084
  12. 12名な名なな告の告ののりりり鳴な鳴ななくくくなるなるなる名能里奈久奈流
  13. 13ほととぎすほととぎすほととぎす保登等藝須
  14. 14いやいやいやめづらしくめづらしくめずらしく伊夜米豆良之久
  15. 15思おも思おもおもほほおゆるゆるゆるかもかもかも於毛保由流香母

引用の仕方

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現代語訳

〔4082〕(天ざかる)鄙にいる卑しい私に、天上の人のようなお方が、このように恋してくださるならば、生きている甲斐があります。

〔4083〕いつもの恋しさもまだ止まないのに、都から馬に積んだ恋がやって来たら、担いきれるでしょうか。

〔4084〕明け方に、自分の名を告げて鳴いているほととぎすは、いっそう愛しく思われることだ。

意訳

坂上郎女の戯れの歌に、家持が同じ調子で答えた歌である。鄙の卑しい身に天上の人が恋してくださるなら生きる甲斐があると謙遜し、馬に積んだ恋が届いたら担いきれないと切り返す。別に添えた歌では、明け方に名告りをして鳴くほととぎすの声に、都を慕う思いを託す。

語釈・文法注

文法・本文

鄙の奴
「ひなのやつこ」。鄙にいる卑しい身。
天人
「あめひと」。天上の人。坂上郎女を指す。
生けるしるし
生きている甲斐。白文は「伊家流思留事安里」と書く。
荷ひ堪へむかも
担いきれるだろうか。
名告り鳴く
ほととぎすが自分の名を告げるように鳴く。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第十八・部立なし・4082〜4084番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平感宝元年5月4日、越中守大伴家持が、坂上郎女に答えて都へ贈った歌。

修辞

照応
4083番で、4081番の「片思を馬に負せ持て」を受けて答える。

解説

この年(天平21年)は4月に天平感宝、7月に天平勝宝と改元された。

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出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、653頁(コマ119)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、770頁(コマ149)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日