万葉集 巻第十八 4073〜4075番
月見れば 同じ國なり
天平20年3月15日、越中から越前国掾に転任した大伴池主が、家持に書簡に添えて贈った歌三首。月を見れば同じ国にいるようなのに、山こそがあなたのあたりを隔てているという歌、桜は今が盛りと人は言うが、私は寂しい、あなたがいないのでという歌、私を思ってもいないだろうあなたを、人が怪しんで問うほど嘆き続けるのかという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞越前國掾大伴宿禰池主、來贈れる歌三首
- 1月月つき見見みれれればばば都奇見禮婆4073
- 2同同おなじじじ國國くになりなりなり於奈自久爾奈里
- 3山山やまこそこそこそははは夜麻許曾波
- 4君君きみががが邊邊あたりををを伎美我安多里乎
- 5隔隔へだてててたりたりたりけれけれけれ敝太弖多里家禮
- 6櫻櫻さくら花花ばな櫻花4074
- 7今今いまぞぞぞ盛盛さかりととと今曾盛等
- 8人人ひとははは云云いへへえどどど雖人云
- 9我我われははは不樂不樂さぶしししももも我佐夫之毛
- 10君君きみとととししし在在あらららねねねばばば伎美止之不在者
- 11相相あい思思おもははわずずず安必意毛波受4075
- 12あるあるあるらむらむらん君君きみををを安流良牟伎美乎
- 13あやしくあやしくあやしくももも安夜思苦毛
- 14嘆嘆なげききき渡渡わたるるるかかか奈氣伎和多流香
- 15人人ひとののの問問とふふうまでまでまで比登能等布麻泥
現代語訳
〔4073〕月を見れば、同じ国にいるのに。山こそが、あなたのあたりを隔てていることだ。
〔4074〕桜の花は今が盛りだと人は言うけれど、私は寂しい。あなたが一緒にいないので。
〔4075〕私を思ってもいないだろうあなたなのに、不思議なほど嘆き続けることか。人が尋ねるほどまでに。
意訳
越中で家持と親しく交わった池主が、越前に転任してから贈った歌である。同じ月を見ているのに山が隔てていると嘆き、桜の盛りも家持がいなければ寂しいと訴え、人が怪しむほど嘆き続けていると、変わらぬ友情を伝える。
語釈・文法注
文法・本文
- 君が邊
- 「きみがあたり」。あなたのいるあたり。
- 不樂し
- 「さぶし」。寂しい。
- 相思はず
- 思い合ってもいない。
- 人の問ふまで
- 人が尋ねるほどまでに。
和歌
- 作者
- 大伴池主(生没年未詳(八世紀中頃))
越中掾として国守の大伴家持に仕え、漢文の書簡と歌をさかんに贈り交わした。のち越前掾。天平宝字元年(757)の橘奈良麻呂の変にかかわり、その後の消息は伝わらない。 - 出典
- 『万葉集』巻第十八・部立なし・4073〜4075番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平20年3月15日、越前国掾大伴池主が、越中守大伴家持に贈った歌。
修辞
- 対照
- 4073番で、同じ月を見ることと山が隔てることとを対照させる。
解説
池主は天平19年の秋ごろ越前国掾に転じたと見られる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、651頁(コマ118)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、767頁(コマ147)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日