古典ライブラリー

万葉集 巻第十八 4044〜4045番

濱邊より 我が鞭ち行かば

大伴家持(おおとものやかもち)

天平20年3月25日、布勢の水海へ向かう道中、馬上で口ずさんだ歌二首。浜辺を馬で行くと、海の方から海人の釣り舟が迎えに来ないかという歌、沖から満ちてくる潮のように思いが募る君の御船であろうか、あれはという歌。

浜辺を馬で行く一行と、沖から近づく釣り舟

題詞二十五日、布勢水海に往く道中、馬上の口號二首

  1. 1濱はま濱はまはま邊べ邊べべよりよりより波萬部余里4044
  2. 2我わ我わわががが鞭う鞭ううちちち行ゆ行ゆゆかかかばばば和我宇知由可波
  3. 3海うみ海うみうみ邊べ邊べべよりよりより宇美邊欲利
  4. 4迎むか迎むかむかへへえももも來こ來ここぬぬぬかかか牟可倍母許奴可
  5. 5海人あま海人あまあまののの釣つり釣つりつり舟ぶね舟ぶねぶね安麻能都里夫禰
  6. 6沖おき沖おきおき邊へ邊へへよりよりより於伎敝欲里4045
  7. 7滿み滿みみちちち來く來くくるるる潮しほ潮しほしおののの美知久流之保能
  8. 8いやいやいや增ま增まましししににに伊也麻之爾
  9. 9我あ我ああががが思も思ももふふう君きみ君きみきみががが安我毛布伎見我
  10. 10御み御みみ船ふね船ふねふねかもかもかも彼かれ彼かれかれ彌不根可母加禮

引用の仕方

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現代語訳

〔4044〕浜辺を私が馬に鞭打って行くと、海の方から迎えにでも来ないものか、海人の釣り舟が。

〔4045〕沖の方から満ちて来る潮のように、ますます募って私の思う君の、御船であろうか、あれは。

意訳

布勢の水海へ向かう道中、浜辺を馬で行きながら即興で詠んだ歌である。海人の釣り舟が迎えに来てくれないかと興じ、沖から近づく舟を見て、慕わしい人の乗る船かと喜ぶ。

語釈・文法注

文法・本文

鞭ち行かば
「うちゆかば」。馬に鞭打って行くと。
迎へも來ぬか
迎えに来てくれないものか。
我が思ふ君
「あがもふきみ」。私の慕う方。
御船かも彼
あれは御船であろうか。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第十八・部立なし・4044〜4045番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平20年3月25日、布勢の水海へ向かう道中、馬上で詠んだ歌。

修辞

序詞
4045番の「沖邊より滿ち來る潮の」が「いや增しに」を導く。
倒置
4045番の結句「御船かも彼」。

解説

口號は、即興で口ずさんだ歌の意。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、646頁(コマ116)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、761頁(コマ144)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日