万葉集 巻第十八 4038〜4042番
玉くしげ いつしか明けむ
天平20年3月、越中を訪れた田辺福麻呂が詠んだ歌五首。いつになったら夜が明けるのか、布勢の浦を行きながら玉藻を拾おうという歌、噂にだけ聞いて見たことのない布勢の浦を見ずには都へ上るまいという歌、布勢の浦を見たら大宮人に語り継ごうという歌、梅の花の咲き散る園に、君の使いを待ちながら行こうという歌、藤の花が咲いていくのを見ると、ほととぎすの鳴く時が近づいたという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(田邊史福麿の歌五首)
- 1玉玉たまくしげくしげくしげ多麻久之氣4038
- 2いついついつしかしかしか明明あけけけむむん伊都之可安氣牟
- 3布勢布勢ふせののの海海うみののの布勢能宇美能
- 4浦浦うらををを行行ゆきききつつつつつつ宇良乎由伎都追
- 5玉玉たま藻藻も拾拾ひりははわむむん多麻母比利波牟
- 6音音おとのみのみのみににに於等能未爾4039
- 7聞聞ききききててて目目めににに見見みぬぬぬ伎吉底目爾見奴
- 8布勢布勢ふせののの浦浦うらををを布勢能宇良乎
- 9見見みずずずははは上上のぼらららじじじ見受波能保良自
- 10年年としははは經經へぬぬぬともともとも等之波倍奴等母
- 11布勢布勢ふせののの浦浦うらををを布勢能宇良乎4040
- 12行行ゆきききてててししし見見みてててははは由吉底之見弖波
- 13百磯城百磯城ももしきののの毛母之綺能
- 14大宮大宮おおみや人人びとににに於保美夜比等爾
- 15語語かたりりり繼繼つぎぎぎてててむむん可多利都藝底牟
- 16梅梅うめののの花花はな宇梅能波奈4041
- 17咲咲さききき散散ちるるる園園そのににに佐伎知流曾能爾
- 18われわれわれ行行ゆかかかむむん和禮由可牟
- 19君君きみががが使使つかいををを伎美我都可比乎
- 20片片かた待待まちちちがてらがてらがてら可多麻知我底良
- 21藤浪藤浪ふじなみののの敷治奈美能4042
- 22咲咲さききき行行ゆくくく見見みれれればばば佐伎由久見禮婆
- 23ほととぎすほととぎすほととぎす保等登藝須
- 24鳴鳴なくくくべきべきべき時時ときににに奈久倍吉登伎爾
- 25近近ちかづきづきづきにににけりけりけり知可豆伎爾家里
現代語訳
〔4038〕(玉くしげ)いつになったら夜が明けるのだろう。布勢の海の浦を行きながら、玉藻を拾おう。
〔4039〕噂にだけ聞いて目に見たことのない布勢の浦を、見ないうちは都へ上るまい。年がたってしまっても。
〔4040〕布勢の浦を行って見たならば、(百磯城の)大宮人に語り継ごう。
〔4041〕梅の花の咲いて散る園に、私は行こう。あなたからの使いを待ちながら。
〔4042〕藤の花が咲いていくのを見ると、ほととぎすの鳴くはずの時が近づいたことだ。
意訳
翌日の布勢の水海遊覧を待ちわびる福麻呂の歌である。夜明けを待ちかね、噂に聞く浦を見ずには帰るまいと意気込み、見たら都の大宮人に語り継ごうと期待をふくらませる。さらに梅の園での待ち合わせや、藤の花に寄せてほととぎすの季節の近いことを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- いつしか明けむ
- いつになったら明けるのだろう。
- 拾はむ
- 「ひりはむ」。拾おう。
- 音のみに
- 噂にだけ。
- 上らじ
- 都へ上るまい。
- 百磯城の
- 「大宮」にかかる枕詞。
- 片待ちがてら
- 待ちながら。
和歌
- 作者
- 田辺福麻呂(生没年未詳)
奈良時代の官人・歌人。橘諸兄に仕え、宮廷歌人として都の讃歌などを残した。巻第六の終わりの21首は『田辺福麻呂歌集』から採られている。 - 出典
- 『万葉集』巻第十八・部立なし・4038〜4042番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平20年3月、越中守大伴家持の館に滞在していた田辺福麻呂の歌。
修辞
- 期待
- 翌日の遊覧を待ちかねる心を、夜明けを待つ形で詠む。
解説
福麻呂はこの後、布勢の水海に向かう道中でも歌を詠んでいる(4044番以下)。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、645頁(コマ115)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、760頁(コマ144)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日