古典ライブラリー

万葉集 巻第十七 4029番

珠洲の海に 朝びらきして

大伴家持(おおとものやかもち)

天平20年春、越中守大伴家持が諸郡を巡行し、能登の珠洲郡から船出して国府へ帰る途中、長浜の湾に停泊して月の光を仰いで詠んだ歌。珠洲の海に朝早く船出して漕いで来ると、長浜の浦に月が照っていたという歌。

長浜の湾に泊めた船の上から、海を照らす月を仰ぐ旅人

題詞珠洲郡より發船して治布に還りし時、長濱灣に泊てて月光を仰ぎ見て作れる歌一首

  1. 1珠洲すす珠洲すすすすののの海うみ海うみうみににに珠洲能宇美爾
  2. 2朝あさ朝あさあさびらきびらきびらきしししててて安佐比良伎之底
  3. 3漕こ漕ここぎぎぎ來く來くくれれればばば許藝久禮婆
  4. 4長なが長ながなが濱はま濱はまはまののの灣うら灣うらうらににに奈我波麻能宇良爾
  5. 5月つき月つきつき照て照ててりりりにににけりけりけり都奇底理爾家里

引用の仕方

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現代語訳

珠洲の海に朝早く船出して漕いで来ると、長浜の浦に月が照っていた。

意訳

能登半島の先端の珠洲から朝早く船出し、一日漕ぎ続けて長浜の浦に着くと、もう月が海を照らしていた。巡行の長い船旅の一日を、朝の船出と夜の月で結んだ歌である。

語釈・文法注

文法・本文

珠洲
「すす」。能登半島の先端の郡。
朝びらき
朝早く船出すること。
長濱の灣
「ながはまのうら」。所在未詳。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第十七・部立なし・4029番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平20年春、越中守大伴家持が出挙のために諸郡を巡行し、能登の珠洲から国府へ帰る途中の歌。

修辞

対照
朝の船出と、夜に着いた浦を照らす月とを対照させる。

解説

左注により、4021番からこの歌までが、春の出挙のための巡行の歌であることがわかる。出挙は、春に稲を貸し付け、秋に利息とともに回収する制度。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、638頁(コマ112)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、751頁(コマ139)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日