古典ライブラリー

万葉集 巻第十七 4016番

婦負の野の 薄押し靡べ

高市黒人(たけちのくろひと)

高市黒人の歌で、越中で三國五百國が伝え誦んだもの。婦負の野の薄を押し靡かせて降る雪の中、宿を借りる今日はとりわけ悲しく思われるという歌。

雪の降りしきる婦負の野で、薄が雪に押し伏せられている

題詞高市連黒人の歌一首(年月審ならず)

  1. 1婦負めひ婦負めひめいののの野の野ののののの賣比能野能
  2. 2薄すすき薄すすきすすき押お押おおししし靡な靡ななべべべ須々吉於之奈倍
  3. 3降ふ降ふふるるる雪ゆき雪ゆきゆきににに布流由伎爾
  4. 4宿やど宿やどやど借か借かかるるる今日けふ今日けふきょうししし夜度加流家數之
  5. 5悲かな悲かなかなしくしくしく思おも思おもおもほほおゆゆゆ可奈之久於毛倍遊

引用の仕方

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現代語訳

婦負の野の薄を押し靡かせて降る雪の中で、宿を借りる今日は、とりわけ悲しく思われる。

意訳

越中の婦負の野を旅する者が、薄を押し伏せるほどの雪に降られ、見知らぬ家に宿を借りる心細さを詠んだ歌である。旅の歌を多く残した高市黒人の作と伝えられ、越中で語り継がれていた。

語釈・文法注

文法・本文

婦負
「めひ」。越中の郡名。今の富山市西部あたり。
押し靡べ
「おしなべ」。押し伏せて。
今日し
今日はとりわけ。

和歌

作者
高市黒人(生没年未詳(7世紀末〜8世紀初め))
持統・文武天皇の時代の歌人。旅の途中の景色を、静かで寂しさのこもった目で詠んだ短歌にすぐれ、万葉集に十数首を残す。
出典
『万葉集』巻第十七・部立なし・4016番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
高市黒人が越中の婦負の野で雪に遭って詠んだと伝える歌。

修辞

写生
薄を押し伏せて降る雪の情景で、旅の侘しさを表す。

解説

三國五百國は越中の官人と見られる。黒人が越中に来たかどうかは明らかでない。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、635頁(コマ110)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、748頁(コマ138)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日