古典ライブラリー

万葉集 巻第十七 3989〜3990番

奈呉の海の 沖つ白波

大伴家持(おおとものやかもち)

天平19年4月20日、正税帳使として都へ上る大伴家持を、越中大目秦八千島が館で送別した宴で、家持が詠んだ歌二首。奈呉の海の沖の白波のように、しきりに思われるだろう、別れて行ったならという歌と、あなたが玉であればよい、手に巻いて見ながら行こうに、置いて行くのは惜しいという歌。

奈呉の海を望む館で、送別の宴が開かれている

題詞大目秦忌寸八千島の館にて、守大伴宿禰家持を餞する宴の歌二首

  1. 1奈呉なご奈呉なごなごののの海うみ海うみうみののの奈呉能宇美能3989
  2. 2沖おき沖おきおきつつつ白しら白しらしら波なみ波なみなみ意吉都之良奈美
  3. 3しくしくしくしくしくしくににに志苦思苦爾
  4. 4思おも思おもおもほほおえええむむんかもかもかも於毛保要武可母
  5. 5立た立たたちちち別わか別わかわかれれれなななばばば多知和可禮奈波
  6. 6我わ我わわががが兄子せこ兄子せこせこははは和我勢故波3990
  7. 7玉たま玉たまたまにににもがもがもがもなもなもな多麻爾母我毛奈
  8. 8手て手ててににに纏ま纏ままきききててて手爾麻伎底
  9. 9見み見みみつつつつつつ行ゆ行ゆゆかかかむむんををを見都追由可牟乎
  10. 10置お置おおきききててて往い往いいかかかばばば惜を惜をおししし於吉底伊加婆乎思

引用の仕方

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現代語訳

〔3989〕奈呉の海の沖の白波のように、しきりに思われることだろうか。別れて行ったならば。

〔3990〕あなたが玉であればよいのに。手に巻いて見ながら行こうものを。置いて行くのは惜しい。

意訳

都へ上る家持が、送別の宴で越中の官人たちとの別れを惜しんだ歌である。館から見える奈呉の海の白波に寄せて、別れた後もしきりに思い出されるだろうと詠み、親しい友を玉にして手に巻いて連れて行きたいと願う。

語釈・文法注

文法・本文

しくしくに
しきりに。白波が次々に寄せることから導かれる。
玉にもがもな
玉であればよいのに。
置きて往かば
残して行ったならば。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第十七・部立なし・3989〜3990番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平19年4月20日、越中大目秦八千島の館で、正税帳使として上京する大伴家持を送る宴での家持の歌。

修辞

序詞
3989番の「奈呉の海の沖つ白波」が「しくしくに」を導く。

解説

正税帳使は、国の正税(稲)の収支を記した帳簿を都に届ける使い。家持はこの年の五月に上京した。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、629頁(コマ107)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、737頁(コマ132)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日