古典ライブラリー

万葉集 巻第十七 3985〜3987番

射水河 い行き廻れる

大伴家持(おおとものやかもち)

天平19年3月30日、越中守大伴家持が、国府の近くの二上山をたたえて詠んだ長歌と短歌二首。射水川がめぐって流れる二上山は、春の花の盛りにも秋の紅葉の時にも、仰ぎ見れば神の山ゆえに尊く、山の品格ゆえに見飽きない、渋谿の崎の荒磯に寄せる白波や満ちてくる潮のように、絶えることなく昔から今に至るまで、見る人ごとに心にかけて賞美するだろうと詠む長歌と、渋谿の崎の荒磯に寄せる波のように昔が思われるという歌、二上山に鳴く鳥の声が恋しい季節が来たという歌。

射水川のほとりから仰ぎ見る、春の花の咲く二上山

題詞二上山の賦一首(此の山は射水郡にあり)

  1. 1射水いみづ射水いみづいみず河がは河がはがわいいい行ゆ行ゆゆききき廻めぐ廻めぐめぐれれれるるる伊美都河泊 伊由伎米具禮流長歌
  2. 2玉たま玉たまたまくしげくしげくしげ二上ふたがみ二上ふたがみふたがみ山やま山やまやまははは多麻久之氣 布多我美山者
  3. 3春はる春はるはる花はな花はなはなののの咲さ咲ささけけけるるる盛さかり盛さかりさかりににに波流波奈乃 佐氣流左加利爾
  4. 4秋あき秋あきあきののの葉は葉ははのののにほへにほへにおえるるる時とき時ときときににに安吉乃葉乃 爾保弊流等伎爾
  5. 5出い出いいででで立た立たたちちちてててふりふりふり放さ放ささけけけ見み見みみれれればばば出立底 布里佐氣見禮婆
  6. 6神かむ神かむかむ故から故からからややや許多ここば許多ここばここば貴たふと貴たふととうとききき可牟加良夜 曾許婆多敷刀伎
  7. 7山やま山やまやま故から故からからややや見み見みみががが欲ほ欲ほほしからしからしからむむん夜麻可良夜 見我保之加良武
  8. 8皇神すめがみ皇神すめがみすめがみののの裾すそ裾すそすそ廻み廻みみののの山やま山やまやまののの須賣加未能 須蘇未乃夜麻能
  9. 9澁溪しぶたに澁溪しぶたにしぶたにののの埼さき埼さきさきののの荒あり荒ありあり磯そ磯そそににに之夫多爾能 佐吉乃安里蘇爾
  10. 10朝あさ朝あさあさなぎなぎなぎににに寄よ寄よよするするする白しら白しらしら波なみ波なみなみ阿佐奈藝爾 餘須流之良奈美
  11. 11夕ゆふ夕ゆふゆうなぎなぎなぎににに滿み滿みみちちち來く來くくるるる潮しほ潮しほしおののの由敷奈藝爾 美知久流之保能
  12. 12いやいやいや增ま增まましししににに絶た絶たたゆるゆるゆることことこと無な無ななくくく伊夜麻之爾 多由流許登奈久
  13. 13古いにしへ古いにしへいにしえゆゆゆ今いま今いまいまののの現をつつ現をつつおつつににに伊爾之弊由 伊麻乃乎都豆爾
  14. 14斯か斯かかくくくしししこそこそこそ見み見みみるるる人ひと人ひとひとごとごとごとににに懸か懸かかけけけててて偲しぬ偲しぬしぬばばばめめめ可久之許曾 見流比登其等爾 加氣底之努波米
  15. 15澁溪しぶたに澁溪しぶたにしぶたにののの之夫多爾能短歌
  16. 16埼さき埼さきさきののの荒あり荒ありあり磯そ磯そそににに佐伎能安里蘇爾
  17. 17寄よ寄よよするするする波なみ波なみなみ與須流奈美
  18. 18いやいやいやしくしくしくしくしくしくににに伊夜思久思久爾
  19. 19いにしへいにしへいにしえ思おも思おもおもほほおゆゆゆ伊爾之弊於毛保由
  20. 20玉たま玉たまたまくしげくしげくしげ多麻久之氣短歌
  21. 21二上ふたがみ二上ふたがみふたがみ山やま山やまやまににに敷多我美也麻爾
  22. 22鳴な鳴ななくくく鳥とり鳥とりとりののの鳴鳥能
  23. 23聲こゑ聲こゑこえののの戀こひ戀こひこいしきしきしき許惠乃孤悲思吉
  24. 24時とき時ときときははは來き來ききにににけりけりけり登岐波伎爾家里

引用の仕方

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現代語訳

〔3985〕射水川が行きめぐって流れる、(玉くしげ)二上山は、春の花の咲く盛りに、秋の木の葉の色づく時に、出で立って仰ぎ見ると、神の山であるからか、たいそう尊く、山の品格のゆえか、見たいと思われる。神の山の裾をめぐる山の、渋谿の崎の荒磯に、朝なぎに寄せる白波、夕なぎに満ちて来る潮のように、ますます絶えることなく、昔から今に至るまで、このように見る人ごとに、心にかけて賞美するだろう。

〔3986〕渋谿の崎の荒磯に寄せる波のように、ますますしきりに昔のことが思われる。

〔3987〕(玉くしげ)二上山に鳴く鳥の声が恋しい季節がやって来た。

意訳

越中国府の近くにそびえる二上山を、神の山として讃えた歌である。柿本人麻呂らの山讃めの長歌の型に倣い、射水川・渋谿の荒磯・朝夕の波と潮を取り合わせて、昔から今まで人々に賞美される山の永遠性を詠む。題に「賦」とあるのは、漢詩文の賦に倣った意識による。

語釈・文法注

文法・本文

射水河
「いみづがは」。越中の川。今の小矢部川・庄川の下流。
神故や
「かむからや」。神であるゆえか。
許多貴き
「ここばたふとき」。たいそう尊い。白文は「曾許婆」。
山故や
「やまからや」。山の品格ゆえか。
皇神
「すめがみ」。その土地を領する神。
裾廻
「すそみ」。裾のあたり。
今の現に
「いまのをつつに」。今の現実に至るまで。
偲ばめ
「しぬばめ」。賞美するだろう。
しくしくに
しきりに。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守・少納言・兵部少輔などを歴任し、晩年は中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した歌人で、その編纂にも深く関わったとされる。繊細で感傷的な歌風は、万葉集の第4期を代表する。百人一首の第6首の作者でもある。
出典
『万葉集』巻第十七・部立なし・3985〜3987番
歌体
長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平19年3月30日、越中守大伴家持が、二上山をたたえて詠んだ歌。

修辞

対句
「神故や許多貴き」と「山故や見が欲しからむ」、「朝なぎに寄する白波」と「夕なぎに滿ち來る潮の」。
序詞
「澁溪の…滿ち來る潮の」が「いや增しに」を導く。

解説

家持は越中でこの「二上山の賦」のほか、「遊覧布勢水海賦」「立山賦」を作り、「越中三賦」と呼ばれる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、628頁(コマ107)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、736頁(コマ132)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日