万葉集 巻第十七 3927〜3930番
草枕 旅ゆく君を
天平18年、越中守として赴任する甥の家持に、叔母の大伴坂上郎女が贈った歌四首。旅ゆく君が無事であるようにと床のそばに斎瓮を据えたという歌、今のように恋しく思われたらどうしようという歌、旅立った君が続けて夢に見えるのは私の片恋がしきりだからかという歌、道の途中の国の神は旅慣れない君を守ってほしいという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞大伴宿禰家持、閏七月を以て越中國守に任けられ、即ち七月を取りて任所に赴く。時に姑大伴氏坂上郎女、家持に贈れる歌二首/更に越中國に贈れる歌二首
- 1草草くさ枕枕まくら久佐麻久良3927
- 2旅旅たびゆくゆくゆく君君きみををを多妣由久吉美乎
- 3幸幸さきくくくあれあれあれととと佐伎久安禮等
- 4齋瓮齋瓮いわいべすゑすゑすえつつつ伊波比倍須惠都
- 5吾吾あががが床床とこののの邊邊へににに安我登許能弊爾
- 6今今いまのののごとごとごと伊麻能其等3928
- 7戀戀こいしくしくしく君君きみががが古非之久伎美我
- 8思思おもほほおえええばばば於毛保要婆
- 9いかにいかにいかにかもかもかもせせせむむん伊可爾加母世牟
- 10爲爲するるるすべすべすべのののなさなさなさ須流須邊乃奈左
- 11旅旅たびににに去去いにににししし多妣爾伊仁思3929
- 12君君きみしもしもしも續續つぎぎぎててて吉美志毛都藝底
- 13夢夢いめににに見見みゆゆゆ伊米爾美由
- 14吾吾あががが片片かた戀戀こいののの安我加多孤悲乃
- 15しげけれしげけれしげければばばかもかもかも思氣家禮婆可聞
- 16道道みちののの中中なか美知乃奈加3930
- 17國國くにつつつ御御み神神かみははは久爾都美可未波
- 18旅旅たび行行ゆきももも多妣由伎母
- 19爲爲し知知しらららぬぬぬ君君きみををを之思良奴伎美乎
- 20惠惠めぐみみみたまはたまはたまわななな米具美多麻波奈
現代語訳
〔3927〕(草枕)旅を行くあなたが無事であるようにと、斎瓮を据えました。私の床のそばに。
〔3928〕今のように恋しくあなたが思われるなら、どうしたらよいのでしょう。なすすべもないことです。
〔3929〕旅に出て行ったあなたが、続けて夢に見えます。私の片恋がしきりだからでしょうか。
〔3930〕道の途中の国々の神は、旅をしたこともないあなたを、どうかお守りください。
意訳
越中守に任じられて赴任する甥の家持に、叔母の坂上郎女が贈った歌である。床のそばに斎瓮を据えて旅の無事を祈り、恋しさにどうすればよいかと嘆き、夢に見えるのは自分の思いが深いからかと詠み、旅慣れない甥を道中の国の神に託す。
語釈・文法注
文法・本文
- 齋瓮
- 「いはひべ」。神を祭るための土器の瓶。
- 片戀
- 「かたこひ」。一方的な恋しさ。
- 道の中國つ御神
- 道の途中の国々の神。
- 爲知らぬ
- 「ししらぬ」。したことのない、慣れない。
- 惠みたまはな
- お守りください。
和歌
- 作者
- 大伴坂上郎女(生没年未詳)
大伴安麻呂の娘で、旅人の異母妹。家持の叔母で、のちに姑となった。大伴家の家刀自として一族の祭祀を担い、万葉集の女性歌人のうち最も多くの歌を残した。 - 出典
- 『万葉集』巻第十七・部立なし・3927〜3930番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 天平18年、大伴坂上郎女が越中守として赴任する甥家持に贈った歌。
修辞
- 祈り
- 旅の安全を神に祈る。
解説
坂上郎女は家持の叔母であり、また姑(妻坂上大嬢の母)でもあった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、614頁(コマ100)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、719頁(コマ123)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日