万葉集 巻第九 1732〜1734番
大葉山 霞たなびき
大葉山に霞がたなびいて夜がふけた。私の船を泊める港もわからない。思いながら来たけれど来かねて、水尾が崎の真長の浦をまた振り返って見た。高島の阿渡の湖を漕ぎ過ぎて、塩津や菅浦を今ごろ漕いでいるだろうか。碁師と小弁の琵琶湖の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞碁師の歌二首/小辯の歌一首
- 1大葉大葉おおば山山やま母山1732 碁師
- 2霞霞かすみたなびきたなびきたなびき霞棚引
- 3さささ夜夜よふけふけふけててて左夜深而
- 4吾吾わががが船船ふね泊泊はてててむむん吾舟將泊
- 5泊泊とまり知知しらららずずずももも等萬里不知母
- 6思思おもひひいつつつつつつ思乍1733 碁師
- 7來來くれれれどどど來來きかねかねかねててて雖來來不勝而
- 8水尾水尾みおががが埼埼さき水尾崎
- 9眞長眞長まながののの浦浦うらををを眞長乃浦乎
- 10またまたまた還還かえりりり見見みつつつ又顧津
- 11高島高島たかしまののの高島之1734 小弁
- 12阿渡阿渡あどののの湖湖みなとををを足利湖乎
- 13榜榜こぎぎぎ過過すぎぎぎててて榜過而
- 14鹽津鹽津しおつ菅浦菅浦すがうら鹽津菅浦
- 15今今いまかかか榜榜こぐぐぐらむらむらん今香將榜
現代語訳
〔1732〕大葉山に霞がたなびいて、夜がふけてしまった。私の船を泊める港もわからない。
〔1733〕思いながらやって来たけれど、来かねて、水尾が崎の真長の浦を、また振り返って見たことだ。
〔1734〕高島の阿渡の湖を漕ぎ過ぎて、塩津や菅浦を今ごろ漕いでいるだろうか。
意訳
琵琶湖の船旅の歌である。霞にかすむ夜の湖で泊まる港を探す不安、名残惜しくて水尾が崎の浦を振り返る歌、高島を過ぎて湖の北の塩津・菅浦あたりを今ごろ漕いでいるだろうと旅人を思いやる歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 來かねて
- 来るのがつらくて、進みかねて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第九・雑歌・1732〜1734番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 碁師の歌二首と小弁の歌一首。
解説
塩津・菅浦は琵琶湖北岸の港で、北陸への道の起点であった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、353頁(コマ180)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、400頁(コマ206)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日