万葉集 巻第七 1223〜1227番
海の底 沖漕ぐ舟を
沖を漕ぐ舟を岸辺に寄せる風が吹かないものか、波は立てずに。大葉山の霞、夜中の潟で呼んでいた舟人、神の埼の荒波、海藻刈り舟と鴨。旅で作った歌の続き五首。
場面イラスト(準備中)
題詞覊旅にて作れる(13)
- 1海海わたののの底底そこ綿之底1223
- 2沖沖おき漕漕こぐぐぐ舟舟ふねををを奧己具舟乎
- 3邊邊へににに寄寄よせせせむむん於邊將因
- 4風風かぜももも吹吹ふかかかぬぬぬかかか風毛吹額
- 5波波なみ立立たてててずずずしてしてして波不立而
- 6大葉大葉おおば山山やま大葉山1224
- 7霞霞かすみかがふりかがふりかがふり霞蒙
- 8さささ夜夜よ深深ふけけけててて狹夜深而
- 9吾吾わががが船船ふね泊泊はてててむむん吾船將泊
- 10泊泊とまり知知しらららずずずももも停不知文
- 11さささ夜夜よ深深ふけけけててて狹夜深而1225
- 12夜夜よ中中なかののの潟潟かたににに夜中乃方爾
- 13おぼほしくおぼほしくおぼおしく欝之苦
- 14呼呼よびびびししし舟舟ふな人人びと呼之舟人
- 15泊泊はてててにににけむけむけんかもかもかも泊兼鴨
- 16神神みわののの埼埼さき神前1226
- 17荒荒あり磯磯そももも見見みえええずずず荒石毛不所見
- 18浪浪なみ立立たちちちぬぬぬ浪立奴
- 19何處何處いずくゆゆゆ行行ゆかかかむむん從何處將行
- 20避避よき道道じははは無無なしししににに與奇道者無荷
- 21磯磯いそににに立立たちちち礒立1227
- 22沖沖おき邊邊へををを見見みれれればばば奧邊乎見者
- 23海藻海藻め苅苅かり舟舟ぶね海藻苅舟
- 24海人海人あま榜榜こぎぎぎ出出ずらしらしらし海人榜出良之
- 25鴨鴨かも翔翔かけるるる見見みゆゆゆ鴨翔所見
現代語訳
〔1223〕(海の底)沖を漕ぐ舟を、岸辺に寄せる風も吹かないものか。波は立てないで。
〔1224〕大葉山に霞がかかって、夜がふけてしまった。私の船の泊まる港もわからない。
〔1225〕夜がふけて、夜中の潟で、おぼつかなげに呼んでいた舟人は、もう港に泊まったことだろうか。
〔1226〕神の埼の荒磯も見えないほどに波が立った。どこを通って行こうか。避けて通る道もないのに。
〔1227〕磯に立って沖の方を見ると、海藻刈りの舟を海人が漕ぎ出したらしい。鴨が飛び立つのが見える。
意訳
旅の歌の続きである。沖の舟を岸辺に寄せてくれる穏やかな風を願う歌、霞の中で泊まる港もわからない夜の船旅、夜中の潟で呼び交わしていた舟人の身を案じる歌、荒波で道のない神の埼の難所、鴨の飛び立つ気配で海人の船出を知る歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 海の底
- 「沖」にかかる枕詞。
- かがふり
- 霞がかかって。
- おぼほしく
- ぼんやりと、心もとなく。
- 避道
- 「よきぢ」。避けて通る道。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1223〜1227番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「覊旅にて作れる」歌の続き。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 1223番の「海の底」が「沖」にかかる。
解説
神の埼は和歌山県新宮市の三輪崎とされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、271頁(コマ139)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、298頁(コマ155)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日