万葉集 巻第八 1624〜1626番
吾が業なる 早田の穗立
私の作った早稲田の稲穂で作った蘰です。見ながら私を偲んでください、あなた。いとしい人が作った早穂の蘰は見飽きない。秋風の寒い頃、あなたの形見の衣を下に着て偲ぼう。坂上大嬢と大伴家持の贈答三首。
場面イラスト(準備中)
題詞坂上大娘、秋の稻の蘰を大伴宿禰家持に贈れる歌一首/大伴宿禰家持の報へ贈れる歌一首/又、身に著けたる衣を脫ぎて、家持に贈れるに報ふる歌一首
- 1吾吾わががが業業なりなるなるなる吾之業有1624 坂上大嬢
- 2早早わさ田田だののの穗穗ほ立立たち早田之穗立
- 3造造つくりりりたるたるたる造有
- 4蘰蘰かずらぞぞぞ見見みつつつつつつ蘰曾見乍
- 5偲偲しぬばばばせせせ吾吾わ背背せ師弩波世吾背
- 6吾吾わぎ妹妹も子子こががが吾妹兒之1625 家持
- 7業業なりととと造造つくれれれるるる業跡造有
- 8秋秋あきののの田田たののの秋田
- 9早早わさ穗穗ほののの蘰蘰かずら早穗乃蘰
- 10見見みれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬかもかもかも雖見不飽可聞
- 11秋秋あき風風かぜののの秋風之1626 家持
- 12寒寒さむきききこのこのこの頃頃ごろ寒比日
- 13下下したににに著著きむむむ下爾將服
- 14妹妹いもががが形形かた見見みととと妹之形見跡
- 15かつかつかつももも偲偲しぬばばばむむん可都毛思努播武
現代語訳
〔1624〕私が作った早稲田の稲穂で作った蘰です。これを見ながら私を偲んでください、あなた。
〔1625〕いとしい人が、自分の作った秋の田の早穂で作った蘰は、見ても見飽きないことだ。
〔1626〕秋風の寒いこの頃、下に着よう。いとしい人の形見だと思って、また一方では偲ぼう。
意訳
天平11年(739)9月、母の坂上郎女と竹田の田庄に滞在していた大嬢が、自分で作った早稲の稲穂で蘰を編んで家持に贈り、見ながら私を偲んでほしいと伝えた。家持は見飽きないと答え、さらに大嬢が身に着けていた衣を贈ってくると、秋風の寒い頃にそれを下に着て偲ぼうと応じている。
語釈・文法注
文法・本文
- 業
- 「なり」。生業、自分の作ったもの。
- 穗立
- 稲穂の立ったもの。
- かつも
- 一方では、また。
和歌
- 作者
- 坂上大嬢(生没年未詳)
大伴宿奈麻呂と大伴坂上郎女の娘。大伴家持の妻となった。 - 出典
- 『万葉集』巻第八・相聞・1624〜1626番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
- 状況
- 天平11年(739)9月、坂上大嬢と大伴家持が交わした歌三首。
解説
衣や蘰を形見として贈り合うのは、離れて暮らす恋人たちの習わしであった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、331頁(コマ169)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、374頁(コマ193)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日