古典ライブラリー

万葉集 巻第八 1602〜1603番

山彦の 相響むまで

大伴家持(おおとものやかもち)

山びこが響き合うほどに、妻を恋しがって鹿が鳴く山辺に、私はひとりでいて。この頃の明け方に聞くと、山を響かせて雄鹿が鳴いている。大伴家持の鹿の歌二首。

明け方の山辺で雄鹿が首を上げて鳴き、その声が山にこだましている

題詞大伴宿禰家持の鹿鳴の歌二首

  1. 1山やま山やまやま彥びこ彥びこびこののの山妣姑乃1602
  2. 2相あひ相あひあい響とよ響とよとよむむむまでまでまで相響左右
  3. 3妻つま妻つまつま戀ごひ戀ごひごいににに妻戀爾
  4. 4鹿しか鹿しかしか鳴な鳴ななくくく山やま山やまやま邊べ邊べべににに鹿鳴山邊爾
  5. 5獨ひとり獨ひとりひとりのみのみのみしてしてして獨耳爲手
  6. 6このこのこの頃ころ頃ころころののの頃者之1603
  7. 7朝あさ朝あさあさけけけににに聞き聞ききけけけばばば朝開爾聞者
  8. 8あしひきあしひきあしひきののの足日木篦
  9. 9山やま山やまやまををを響とよ響とよとよもしもしもし山乎令響
  10. 10さをさをさお鹿しか鹿しかしか鳴な鳴ななくくくももも狹尾牡鹿鳴哭

引用の仕方

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現代語訳

〔1602〕山びこが響き合うほどに、妻を恋しがって鹿の鳴く山辺に、私はひとりきりでいて。

〔1603〕この頃の明け方に聞くと、(あしひきの)山を響かせて、雄鹿が鳴いていることだ。

意訳

天平15年(743)8月、恭仁京での作である。妻を呼ぶ鹿の声が山にこだまするのを聞きながら、奈良に妻を残してひとりでいる寂しさを重ねている。

語釈・文法注

文法・本文

相響む
互いに響き合う。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した。
出典
『万葉集』巻第八・雑歌・1602〜1603番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平15年(743)8月16日、大伴家持の鹿の歌二首。

修辞

枕詞
1603番の「あしひきの」が「山」にかかる。

解説

妻恋の鹿に自分を重ねる発想は、家持の得意とするところである。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、328頁(コマ168)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、370頁(コマ191)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日