古典ライブラリー

万葉集 巻第八 1597〜1599番

秋の野に 咲ける秋萩

大伴家持(おおとものやかもち)

秋の野に咲く秋萩が、秋風になびいている上に、秋の露が置いている。雄鹿の立つ野辺の萩に置く白露、雄鹿の胸で分けられて散った萩。天平15年、大伴家持が秋の景色を見て作った歌三首。

秋の野で萩が風になびき、露の玉が光る中を、雄鹿が胸で萩を分けて歩いている

題詞大伴宿禰家持の秋の歌三首

  1. 1秋あき秋あきあきののの野ぬ野ぬぬににに秋野爾1597
  2. 2咲さ咲ささけけけるるる秋あき秋あきあき萩はぎ萩はぎはぎ開流秋芽子
  3. 3秋あき秋あきあき風かぜ風かぜかぜににに秋風爾
  4. 4靡なび靡なびなびけけけるるる上うへ上うへうえににに靡流上爾
  5. 5秋あき秋あきあきののの露つゆ露つゆつゆおけおけおけりりり秋露置有
  6. 6さをさをさお鹿しか鹿しかしかののの棹牡鹿之1598
  7. 7朝あさ朝あさあさ立た立たたつつつ野ぬ野ぬぬ邊べ邊べべののの朝立野邊乃
  8. 8秋あき秋あきあき萩はぎ萩はぎはぎににに秋芽子爾
  9. 9玉たま玉たまたまととと見み見みみるるるまでまでまで玉跡見左右
  10. 10おけおけおけるるる白しら白しらしら露つゆ露つゆつゆ置有白露
  11. 11さをさをさお鹿しか鹿しかしかののの狹尾牡鹿乃1599
  12. 12胸むな胸むなむな別わけ別わけわけにににかもかもかも胸別爾可毛
  13. 13秋あき秋あきあき萩はぎ萩はぎはぎののの秋芽子乃
  14. 14散ち散ちちりりり過す過すすぎぎぎにににけるけるける散過鷄類
  15. 15盛さかり盛さかりさかりかもかもかも去い去いいぬぬぬるるる盛可毛行流

引用の仕方

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現代語訳

〔1597〕秋の野に咲いている秋萩が、秋風になびいている、その上に、秋の露が置いている。

〔1598〕雄鹿が朝立っている野辺の秋萩に、玉かと見えるほどに置いている白露よ。

〔1599〕雄鹿が胸で押し分けたからだろうか、秋萩が散ってしまったのは。それとも花の盛りが過ぎたのだろうか。

意訳

天平15年(743)8月、恭仁京にいた家持が秋の景色を見て作った歌三首である。1597番は一首に「秋」を四度くり返して秋の野の情景を描き、1598番は萩に置く露を玉に見立て、1599番は萩が散ったのは鹿が胸で分けたからか、盛りが過ぎたからかと問いかけている。

語釈・文法注

文法・本文

胸別
「むなわけ」。胸で草を押し分けること。

和歌

作者
大伴家持(718?–785)
大伴旅人の子。越中守などを務め、のちに中納言に至った。万葉集に最も多くの歌を残した。
出典
『万葉集』巻第八・雑歌・1597〜1599番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第4期(733〜759年(〜万葉集の最後の歌))
状況
天平15年(743)8月、大伴家持が秋の景色を見て作った歌三首。

修辞

反復
1597番で「秋」を四度くり返す。
見立て
1598番で、露を玉に見立てる。

解説

1597番の「秋」のくり返しは、意図的な技巧として知られる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、327頁(コマ167)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、369頁(コマ190)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日