古典ライブラリー

万葉集 巻第五 880〜882番

天ざかる 鄙に五年

山上憶良(やまのうえのおくら)

遠い田舎に五年も住み続けて、都の風俗も忘れてしまった。このままため息ばかりついているのか。春になったら奈良の都へ召し上げてください。都へ帰る旅人に、自分の帰京を願った山上憶良の歌三首。

筑紫の国府の庭で、老いた官人が都の方角を見つめてため息をついている

題詞敢へて私懷を布ぶる歌三首

  1. 1天あま天あまあまざかるざかるざかる阿麻社迦留880
  2. 2鄙ひな鄙ひなひなににに五いつ五いついつ年とせ年とせとせ比奈爾伊都等世
  3. 3住す住すすまひまひまいつつつつつつ周麻比都都
  4. 4京みやこ京みやこみやこののの風て風てて俗ぶり俗ぶりぶり美夜故能提夫利
  5. 5忘わす忘わすわすらえらえらえにににけりけりけり和周良延爾家利
  6. 6斯か斯かかくくくのみのみのみややや加久能未夜881
  7. 7息いき息いきいき衝づ衝づずききき居を居をおらららむむん伊吉豆伎遠良牟
  8. 8あらあらあらたまたまたまののの阿良多麻能
  9. 9來き來きき經へ經へへ往ゆ往ゆゆくくく年とし年としとしののの吉倍由久等志乃
  10. 10限かぎり限かぎりかぎり知し知ししらららずずずててて可伎利斯良受提
  11. 11吾あ吾ああががが主ぬし主ぬしぬしののの阿我農斯能882
  12. 12御み御みみ靈たま靈たまたま賜たま賜たまたまひひいててて美多麻多麻比弖
  13. 13春はる春はるはるさらさらさらばばば波流佐良婆
  14. 14奈良なら奈良ならならののの京みやこ京みやこみやこににに奈良能美夜故爾
  15. 15召め召めめ上さ上ささげげげ給たま給たまたまははわねねね咩佐宜多麻波禰

引用の仕方

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現代語訳

〔880〕(天ざかる)遠い田舎に五年住み続けて、都の風俗も忘れてしまった。

〔881〕こうしてため息ばかりついているのだろうか。(あらたまの)来ては過ぎていく年の限りも知らずに。

〔882〕わが主君のお恵みをいただいて、春になったら、奈良の都に召し上げてください。

意訳

都へ帰る旅人に、憶良は自分の思いをあえて述べた。筑前に五年も住んで都の風俗も忘れてしまった、いつまでこうしてため息をついていればよいのか。どうか旅人のお力で、春には奈良の都に呼び戻してほしいと、率直に願っている。七十歳を過ぎた憶良の、切実な望郷の歌である。

語釈・文法注

文法・本文

風俗
「てぶり」は風俗、ならわし。
御靈賜ひて
お恵み、ご威光をいただいて。

和歌

作者
山上憶良(660?–733?)
遣唐使に加わって唐に渡り、のちに筑前守となった。大宰府で大伴旅人と交わり、人生や社会、家族への愛を詠んだ独自の歌を残した。
出典
『万葉集』巻第五・雑歌・880〜882番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
天平2年(730)12月6日、大伴旅人の帰京に際して、山上憶良が私的な思いを述べた歌三首。

修辞

枕詞
「天ざかる」「あらたまの」。

解説

憶良は翌々年ごろに帰京したが、天平5年(733)ごろに没したとされる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、205頁(コマ106)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、223頁(コマ117)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日