万葉集 巻第五 806〜809番
龍の馬も 今も得てしか
天をかける龍の馬を今すぐ手に入れたい、奈良の都へ行って帰って来るために。現実には逢う手だてもないので、夜の夢に続けて見えてほしい。大宰府の大伴旅人が都の人と交わした歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(太宰帥大伴卿の相聞の歌二首)/答ふる歌二首
- 1龍龍たつののの馬馬まももも多都能馬母806 旅人
- 2今今いまももも得得えてててしかしかしか伊麻勿愛弖之可
- 3あをによしあをによしあおによし阿遠爾與志
- 4奈良奈良ならののの都都みやこににに奈良乃美夜古爾
- 5行行ゆきききててて來來こむむむ爲爲ため由吉帝己牟丹米
- 6現現うつつにににははは宇豆都仁波807 旅人
- 7逢逢あふふうよしよしよしももも無無なししし安布余志勿奈子
- 8ぬばたまぬばたまぬばたまののの奴波多麻能
- 9夜夜よるののの夢夢いめにににををを用流能伊味仁越
- 10繼繼つぎぎぎててて見見みえええこそこそこそ都伎提美延許曾
- 11龍龍たつののの馬馬まををを多都乃麻乎808 答歌
- 12吾吾あれははは求求もとめめめむむん阿禮波毛等米牟
- 13あをによしあをによしあおによし阿遠爾與志
- 14奈良奈良ならののの都都みやこににに奈良乃美夜古邇
- 15來來こむむむ人人ひとののの爲爲ためににに許牟比等乃多仁
- 16直直ただににに逢逢あははわずずず多陀爾阿波須809 答歌
- 17在在あらくらくらくももも多多おおくくく阿良久毛於保久
- 18敷敷しき妙妙たえののの志岐多閇乃
- 19枕枕まくら離離さらららずずずててて麻久良佐良受提
- 20夢夢いめにににししし見見みえええむむん伊米爾之美延牟
現代語訳
〔806〕天をかける龍の馬も、今すぐ手に入れたいものだ。(あをによし)奈良の都に行って帰って来るために。
〔807〕現実には逢う手だてもない。(ぬばたまの)夜の夢に、続けて見えてほしい。
〔808〕龍の馬を私は探し求めましょう。(あをによし)奈良の都に来ようとする人のために。
〔809〕じかに逢わずにいることが多いので、(敷妙の)枕を離れずに、夢に見えましょう。
意訳
大宰府にいた大伴旅人は、都の人から手紙を受け取り、返事に二首の歌を添えた。一日千里を走るという龍の馬があれば、すぐにでも奈良の都へ行って帰って来られるのにと願い、現実には逢えないから、せめて夢に続けて見えてほしいと歌う。都の人は、龍の馬を私が探して差し上げましょう、あなたの枕もとを離れずに夢に現れましょうと答えた。
語釈・文法注
文法・本文
- 龍の馬
- 空を飛ぶという駿馬。中国の伝説による。
- 得てしか
- 「てしか」は願望。手に入れたい。
和歌
- 作者
- 大伴旅人(665–731)
大伴安麻呂の子で、家持の父。大宰帥として筑紫に赴任し、山上憶良らと筑紫歌壇を形づくった。 - 出典
- 『万葉集』巻第五・雑歌・806〜809番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 大宰帥の大伴旅人が都の人に贈った相聞の歌二首と、それに答えた歌二首。
修辞
- 枕詞
- 「あをによし」「ぬばたまの」「敷妙の」。
解説
相手は旅人の妻の死を弔った都の人とも、女性ともいわれ、定かでない。漢文の書簡に歌を添える形は、巻第五の特色である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、193頁(コマ100)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、207頁(コマ109)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日