古典ライブラリー

万葉集 巻第四 553〜554番

天雲の 遠隔の極

丹生女王(にうのおおきみ)

天雲の遠く隔たった果てのように遠くても、心が通えば恋しいものだ。昔の人が飲んだという吉備の酒も、病んでいてはどうしようもない、貫簀をください。大宰府の大伴旅人に贈った丹生女王の歌二首。

女性が、吉備の酒の入った壺を前に、遠い筑紫の空を思って文をしたためている

題詞丹生女王、太宰帥大伴卿に贈れる歌二首

  1. 1天あま天あまあま雲ぐも雲ぐもぐもののの天雲乃553
  2. 2遠そく遠そくそく隔へ隔へへののの極きはみ極きはみきわみ遠隔乃極
  3. 3遠とほ遠とほとおけどもけどもけども遠鷄跡裳
  4. 4情こころ情こころこころししし行ゆ行ゆゆけけけばばば情志行者
  5. 5戀こ戀ここふるふるうるものものものかもかもかも戀流物可聞
  6. 6古ふ古ふふりりりにににししし古554
  7. 7人ひと人ひとひとののの食を食をおせせせるるる人乃令食有
  8. 8吉備きび吉備きびきびののの酒さけ酒さけさけ吉備能酒
  9. 9病や病ややめめめばばばすべすべすべなしなしなし病者爲便無
  10. 10貫ぬき貫ぬきぬき簀す簀すす賜たば賜たばたばらららむむん貫簀賜牟

引用の仕方

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現代語訳

〔553〕天雲の遠く隔たった果てのように遠いけれども、心が通っていくので、恋しく思うものなのだなあ。

〔554〕老いた人が召し上がったという吉備の酒も、病気になってはどうしようもありません。貫簀をいただきたいものです。

意訳

丹生女王は、遠く筑紫にいる大伴旅人に歌を贈った。553番は、遠く離れていても心が通えば恋しくなると歌う。554番は、旅人から贈られたらしい吉備の酒に寄せて、病気で飲めないので、酒を吐くときに使う貫簀をくださいと、冗談めかして返している。酒好きの旅人との親しい交わりがうかがえる。

語釈・文法注

文法・本文

貫簀
「ぬきす」は竹を編んで作った簾のようなもの。手を洗うときに水が飛び散らないように、たらいの上にかけた。

和歌

作者
丹生女王(生没年未詳)
奈良時代の女王。大伴旅人と親交があった。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・553〜554番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
丹生女王が、大宰帥の大伴旅人に贈った歌二首。

解説

旅人の讃酒歌(338〜350番)とも響き合う、酒にまつわる戯れの歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、157頁(コマ82)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、165頁(コマ88)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日