古典ライブラリー

万葉集 巻第四 488番

君待つと

額田王(ぬかたのおおきみ)

あなたのおいでを待って恋しく思っていると、わが家の簾を動かして秋の風が吹いてくる。天智天皇の訪れを待つ額田王の名歌。

秋の夕暮れ、宮殿の一室で、風に揺れる簾の向こうを、女性が期待をこめて見つめている

題詞額田王、近江天皇を思ひて作れる歌一首

  1. 1君きみ君きみきみ待ま待ままつつつととと君待登
  2. 2吾わ吾わわががが戀こ戀ここひひい居を居をおれれればばば吾戀居者
  3. 3わがわがわが屋や屋やや戸ど戸どどののの我屋戸之
  4. 4簾すだれ簾すだれすだれ動うご動うごうごかしかしかし簾動之
  5. 5秋あき秋あきあきののの風かぜ風かぜかぜ吹ふ吹ふふくくく秋風吹

引用の仕方

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現代語訳

あなたのおいでを待って恋しく思っていると、わが家の簾を動かして、秋の風が吹いてくる。

意訳

額田王は、近江の宮で天智天皇の訪れを待っている。簾がかすかに動いたので、あの方が来られたかと思ったが、それは秋の風であった。期待と落胆とを、風に揺れる簾という小さな動きだけで表した、繊細な恋の歌である。

語釈・文法注

文法・本文

戀ひ居れば
恋しく思っていると。

和歌

作者
額田王(生没年未詳(7世紀後半))
天武天皇との間に十市皇女を生み、のちに天智天皇に仕えた。初期万葉を代表する女性歌人。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・488番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第1期(629〜672年(舒明天皇の即位〜壬申の乱))
状況
額田王が、近江天皇(天智天皇)を思って詠んだ歌。巻第八の1606番にも重ねて載る。

解説

簾を動かす風に恋人の訪れを感じるという発想は、中国の六朝時代の詩の影響を受けたものとされる。次の489番の鏡王女の歌と一組で味わわれる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、147頁(コマ77)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、154頁(コマ83)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日