古典ライブラリー

万葉集 巻第四 489番

風をだに

鏡王女(かがみのおおきみ)

風にさえ恋心を寄せられるのはうらやましい。風だけでも来るかと待つことができるなら、何を嘆くことがあろうか。額田王の「君待つと」に答えた鏡王女の歌。

静まりかえった部屋で、年長の女性が、風に揺れる簾を寂しげに眺めている

題詞鏡王女の作れる歌一首

  1. 1風かぜ風かぜかぜをををだにだにだに風乎太爾
  2. 2戀こ戀ここふるふるうるはははともしともしともし戀流波乏之
  3. 3風かぜ風かぜかぜをををだにだにだに風小谷
  4. 4來こ來ここむむむとととししし待ま待ままたたたばばば將來登時待者
  5. 5何なに何なになにかかか嘆なげ嘆なげなげかかかむむん何香將嘆

引用の仕方

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現代語訳

風にさえ恋しさを寄せられるのは、うらやましいことです。風だけでも来るかと待つことができるなら、何を嘆くことがありましょうか。

意訳

額田王が、簾を動かす風に恋人の訪れを感じて待っていると歌ったのに対し、鏡王女は、風にさえときめくことができるのはうらやましい、私には待つ人もいないのだからと答える。待つ人のいる幸せと、待つ人のいない寂しさとが対比されている。

語釈・文法注

文法・本文

ともし
うらやましい。
何か嘆かむ
反語。何を嘆こうか。

和歌

作者
鏡王女(?–683)
藤原鎌足の妻となった女性。天智天皇とも歌を交わした(巻第二の91〜93番)。
出典
『万葉集』巻第四・相聞・489番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第1期(629〜672年(舒明天皇の即位〜壬申の乱))
状況
488番の額田王の歌に答えた鏡王女の歌。巻第八の1607番にも重ねて載る。

修辞

反復
「風をだに」をくり返す。

解説

鏡王女は額田王の姉とする説もあったが、現在では否定的である。二首は、近江朝の宮廷の女性たちの、細やかな心の交わりを伝えている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、148頁(コマ78)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、154頁(コマ83)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日