古典ライブラリー

万葉集 巻第三 391番

鳥總立て

沙弥満誓(さみまんぜい)

鳥総を立てて祭って足柄山で船材の木を伐ったのに、ただの木材として伐って持っていってしまった。惜しい船材を。思いをかけていた女性をほかの男に取られたことを、船材にたとえた歌。

深い山の中で、杉の大木の切り株に木の梢が立てられ、そのそばで木こりたちが丸太を運び出している

題詞造筑紫觀世音寺別當沙彌滿誓の歌一首

  1. 1鳥と鳥とと總ぶさ總ぶさぶさ立た立たたててて鳥總立
  2. 2足柄あしがら足柄あしがらあしがら山やま山やまやまににに足柄山爾
  3. 3船ふな船ふなふな木ぎ木ぎぎ伐き伐ききりりり船木伐
  4. 4樹き樹ききににに伐き伐ききりりり行ゆ行ゆゆきききつつつ樹爾伐歸都
  5. 5あたらあたらあたら船ふな船ふなふな材ぎ材ぎぎををを安多良船材乎

引用の仕方

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現代語訳

鳥総を立てて山の神を祭り、足柄山で船にする木を伐ったのに、ただの木材として伐って持っていってしまった。惜しい船材を。

意訳

足柄山は良い船材の産地として知られた。山の神を祭って大切に選んだ木を、ほかの人がただの材木として伐っていってしまったと嘆く。表面は木材の話だが、自分が目をかけていた女性を、ほかの男に取られてしまったことのたとえと読まれている。

語釈・文法注

文法・本文

鳥總
「とぶさ」は木を伐った後、その梢を切り株に立てて山の神を祭るもの。
あたら
惜しい、もったいない。

和歌

作者
沙弥満誓(生没年未詳)
俗名は笠麻呂。美濃守・右大弁などを務めた後に出家し、造筑紫観世音寺別当として大宰府に下った。大伴旅人らと交わった。
出典
『万葉集』巻第三・譬喩歌・391番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
造筑紫観世音寺別当の沙弥満誓の譬喩歌。

修辞

譬喩
船材に、思いをかけた女性をたとえる。

解説

木を伐るときに梢を切り株に立てて山の神に返す習俗は、近年まで各地に残っていた。満誓らしい機知に富んだ譬喩の歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、113頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、115頁(コマ63)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日