古典ライブラリー

万葉集 巻第三 390番

輕の池の

紀皇女(きのひめみこ)

軽の池の岸辺を泳ぎめぐる鴨でさえ、玉藻の上でひとり寝はしないのに。鴨のつがいにたとえて、ひとり寝のさびしさを訴えた紀皇女の歌。巻第三の譬喩歌の最初の歌。

静かな池の水面に、玉藻の間を二羽の鴨が寄り添って泳いでいる。岸辺に若い皇女がひとり立っている

題詞譬喩歌 紀皇女の御歌一首

  1. 1輕かる輕かるかるののの池いけ池いけいけののの輕池之
  2. 2浦うら浦うらうら回み回みみ行ゆ行ゆゆきききめぐるめぐるめぐる汭廻往轉留
  3. 3鴨かも鴨かもかもすらすらすらににに鴨尙爾
  4. 4玉たま玉たまたま藻も藻もものののうへうへうえににに玉藻乃於丹
  5. 5獨ひと獨ひとひとりりり宿ね宿ねねなくなくなくににに獨宿名久二

引用の仕方

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現代語訳

軽の池の岸辺を泳ぎめぐる鴨でさえ、玉藻の上でひとり寝はしないのに。

意訳

軽の池の鴨は、いつもつがいで寄り添って玉藻の上に寝ている。鳥でさえひとりでは寝ないのに、私はひとり寝をしている。鴨の姿にたとえて、恋人の来ないさびしさを訴えている。

語釈・文法注

文法・本文

鴨すらに
「すら」は「…でさえ」。
獨り宿なくに
「なくに」は打消のク語法+「に」。ひとりでは寝ないのに。

和歌

作者
紀皇女(生没年未詳)
天武天皇の皇女。弓削皇子との恋の歌(巻第二の119〜122番)で知られる。
出典
『万葉集』巻第三・譬喩歌・390番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
紀皇女の歌。譬喩歌は、物にたとえて思いを述べる歌で、巻第三ではここから譬喩歌が始まる。

修辞

譬喩
鴨のつがいに、恋人どうしをたとえる。

解説

譬喩歌は、万葉集の部立の一つで、巻第三・第七・第十・第十一・第十三・第十四にある。多くは恋の思いを、自然の物にたとえて表した歌である。紀皇女は、弓削皇子が恋した皇女として知られる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、113頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、115頁(コマ63)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日