古典ライブラリー

万葉集 巻第三 351番

世間を 何に譬へむ

沙弥満誓(さみまんぜい)

この世の中を何にたとえようか。朝、港を漕ぎ出していった船の、跡も残らないようなものだ。人生の無常を船の航跡にたとえた、沙弥満誓の名歌。

朝もやの港から一艘の船が漕ぎ出していき、その後ろの水面には、もう跡が消えかかっている

題詞沙彌滿誓の歌一首

  1. 1世間よのなか世間よのなかよのなかををを世間乎
  2. 2何なに何なになにににに譬たと譬たとたとへへえむむん何物爾將譬
  3. 3朝あさ朝あさあさびらきびらきびらき旦開
  4. 4榜こ榜ここぎぎぎ去い去いいにににししし船ふね船ふねふねののの榜去師船之
  5. 5跡あと跡あとあとなきなきなきごとしごとしごとし跡無如

引用の仕方

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現代語訳

この世の中を何にたとえようか。朝、港を開いて漕ぎ出していった船の、跡が残らないようなものだ。

意訳

朝早く港を出ていった船は、しばらくすると水面に何の跡も残さない。人の世も、それと同じように、あとかたもなく過ぎ去っていく。僧である満誓が、仏教の無常観を、身近な船の姿にたとえてわかりやすく歌っている。

語釈・文法注

文法・本文

朝びらき
朝、港を出ること。

和歌

作者
沙弥満誓(生没年未詳)
俗名は笠麻呂。美濃守・右大弁などを務めた後に出家し、造筑紫観世音寺別当として大宰府に下った。大伴旅人らと交わった。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・351番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
沙弥満誓の歌。大宰府での作とみられる。

修辞

比喩
この世を、漕ぎ去った船の跡にたとえる。

解説

無常を歌った歌として名高く、のちに拾遺集に「世の中を何にたとへむ朝ぼらけ漕ぎゆく舟の跡の白波」の形で載り、広く知られるようになった。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、107頁(コマ57)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、108頁(コマ60)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日