古典ライブラリー

万葉集 巻第三 375番

吉野なる 夏實の河の

湯原王(ゆはらのおおきみ)

吉野の菜摘の川の淀みで、鴨の鳴く声が聞こえる。山の陰になったところで。吉野の静かな川辺を詠んだ湯原王の名歌。

山の陰になった静かな川の淀みに、鴨が浮かんで鳴いている。水面に山の緑が映っている

題詞湯原王、芳野にて作れる歌一首

  1. 1吉野よしぬ吉野よしぬよしぬなるなるなる吉野爾有
  2. 2夏實なつみ夏實なつみなつみののの河かは河かはかはののの夏實之河乃
  3. 3川かは川かはかわ淀よど淀よどよどににに川余杼爾
  4. 4鴨かも鴨かもかもぞぞぞ鳴な鳴ななくくくなるなるなる鴨曾鳴成
  5. 5山やま山やまやまかげかげかげにににしししててて山影爾之氐

引用の仕方

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現代語訳

吉野の菜摘の川の淀みで、鴨の鳴く声が聞こえる。山の陰になったところで。

意訳

吉野川の上流、菜摘のあたりの川の淀みは、山の陰になってひっそりとしている。その静けさの中に、鴨の鳴く声だけが聞こえてくる。姿は見えず声だけが聞こえる情景に、深い静寂が感じられる。

語釈・文法注

文法・本文

鳴くなる
「なる」は音や声による推定。鳴いているのが聞こえる。

和歌

作者
湯原王(生没年未詳)
志貴皇子の子。父に似て、繊細で清らかな歌を残した。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・375番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
湯原王が、吉野で詠んだ歌。

解説

静寂の中の鳥の声を描いた叙景歌として、古くから高く評価されている。夏実(菜摘)は奈良県吉野町菜摘で、吉野離宮のあった宮滝の少し上流にあたる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、110頁(コマ59)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、112頁(コマ62)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日