古典ライブラリー

万葉集 巻第三 370番

雨零らず

安倍広庭(あべのひろにわ)

雨は降らずに一面に曇った夜の、しっとりと湿ったなかで、恋しく思いながら待っていました、あなたのおいでを。雨の降りそうな夜に恋人を待つ歌。

雨雲の垂れこめた夜、屋敷の縁で、湿った空気の中、女性が戸口の方を見つめて待っている

題詞安倍廣庭卿の歌一首

  1. 1雨あめ雨あめあめ零ふ零ふふらららずずず雨不零
  2. 2とのとのとの曇ぐも曇ぐもぐもるるる夜よ夜よよののの殿雲流夜之
  3. 3うるほへうるほへうるおえどどど潤濕跡
  4. 4戀こ戀ここひひいつつつつつつ居を居をおりりりききき戀乍居寸
  5. 5君きみ君きみきみ待ま待ままちちちがてりがてりがてり君待香光

引用の仕方

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現代語訳

雨は降らずに一面に曇った夜の、しっとりとした湿り気の中で、恋しく思いながら待っていました。あなたを待ちながら。

意訳

雨は降らないが、空一面が曇ってしっとりと湿った夜、作者は恋しい人を待ち続ける。湿った夜気に、待つ人の重い心が重なっている。

語釈・文法注

文法・本文

との曇る
空一面に曇る。
待ちがてり
待ちながら、待つかたわら。

和歌

作者
安倍広庭(659–732)
奈良時代初めの官人。中納言に至った。懐風藻にも詩が残る。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・370番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
安倍広庭の歌。

解説

原文の「殿雲流」は「との曇る」の当て字。歌意にはさまざまな解釈があり、雨が降らずに恋人の来るのを待ったが来なかった、という意にとる説もある。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、109頁(コマ58)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、111頁(コマ61)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日