古典ライブラリー

万葉集 巻第三 302番

兒らが家道

安倍広庭(あべのひろにわ)

あの娘の家への道はやや遠い。夜空を渡る月と競って急いだら、月に負けずに着けるだろうか。恋人のもとへ急ぐ夜道の歌。

月明かりの夜道を、貴人が馬を走らせている。空には西へ傾きかけた満月

題詞中納言安倍廣庭卿の歌一首

  1. 1兒こ兒ここらららががが家いへ家いへいえ道ぢ道ぢじ兒等之家道
  2. 2やややややや間ま間まま遠だほ遠だほどおしぬしぬしぬ差間遠焉
  3. 3ぬばたまぬばたまぬばたまののの野干玉乃
  4. 4夜よ夜よよ渡わた渡わたわたるるる月つき月つきつきににに夜渡月爾
  5. 5競きほ競きほきおひひいあへあへあえむむんかもかもかも競敢六鴨

引用の仕方

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現代語訳

あの娘の家への道は、やや遠くなってしまった。(ぬばたまの)夜空を渡る月と、競い合って行けるだろうか。

意訳

恋人の家は遠く、夜道を急がねばならない。月が西に沈む前に着けるだろうか、月と競争して急いで行こうと、恋人のもとへ向かう男の心はやりを歌っている。

語釈・文法注

文法・本文

競ひあへむかも
「あふ」は「…しきる」、「かも」は疑問。競い切れるだろうか。

和歌

作者
安倍広庭(659–732)
奈良時代初めの官人。中納言に至った。懐風藻にも詩が残る。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・302番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
中納言安倍広庭の歌。

修辞

枕詞
「ぬばたまの」が「夜」にかかる。

解説

原文の「野干玉」は「ぬばたま」と読ませる戯書。月と競って恋人のもとへ急ぐという発想が楽しい。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、100頁(コマ54)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、100頁(コマ56)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日