万葉集 巻第三 366〜367番
越の海の 角鹿の濱ゆ
敦賀の浜から船出して手結の浦を漕いでいくと、海女たちが塩を焼く煙が見える。旅の身なので一人で見ても甲斐がない。大和の国を心に懸けてしのんだ。越の海を船旅する金村の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞角鹿津にて船に乘る時、笠朝臣金村の作れる歌一首并に短歌
- 1越越こしののの海海うみののの角鹿角鹿つぬがののの濱濱はまゆゆゆ越海之 角鹿乃濱從366 長歌
- 2大大おお船船ぶねににに眞眞ま楫楫かじ貫貫ぬきききおろしおろしおろし大舟爾 眞梶貫下
- 3いさないさないさなとりとりとり海海うみ路路じににに出出いでででててて勇魚取 海路爾出而
- 4喘喘あえぎぎぎつつつつつつ我我わががが榜榜こぎぎぎ行行ゆけけけばばば阿倍寸管 我榜行者
- 5丈丈ます夫夫らおののの手結手結たゆいががが浦浦うらににに大夫乃 手結我浦爾
- 6海海あ未未ま通通お女女とめ鹽鹽しお燒燒やくくくけぶりけぶりけぶり海未通女 鹽燒炎
- 7草草くさ枕枕まくら旅旅たびにににしししあれあれあればばば草枕 客之有者
- 8獨獨ひとりしししててて見見みるるる驗驗しるし無無なみみみ獨爲而 見知師無美
- 9海海わた神神つみののの手手てににに卷卷まかかかしししたるたるたる綿津海乃 手二卷四而有
- 10珠珠たま襷襷だすき懸懸かけけけててて偲偲しのびびびつつつ大和大和やまと島島しま根根ねををを珠手次 懸而之努櫃 日本島根乎
- 11越越こしののの海海うみののの越海乃367 反歌
- 12手結手結たゆいののの浦浦うらををを手結之浦矣
- 13旅旅たびにににしししててて客爲而
- 14見見みれれればばばともしみともしみともしみ見者乏見
- 15大和大和やまと思思しのびびびつつつ日本思櫃
現代語訳
〔366〕越の海の角鹿の浜から、大船の両舷に楫を通して、(いさなとり)海路に出て、あえぎながら私が漕いでいくと、(丈夫の)手結の浦で、海女たちが塩を焼く煙が見える。(草枕)旅の身なので、ひとりで見ても甲斐がないので、海神が手に巻いておいでになる玉のたすきのように、心に懸けてしのんだ。大和の国を。
〔367〕越の海の手結の浦を、旅の途中で見ると心ひかれるので、大和をしのんだことだ。
意訳
金村は越前の角鹿(今の福井県敦賀市)の港から日本海へ船出した。手結の浦で海女たちが塩を焼く煙の立つ珍しい景色を見ても、旅の身でひとりで見るのでは甲斐がない。美しい景色を見るにつけ、ともに見る人のいる大和が恋しく思われるのである。
語釈・文法注
文法・本文
- 眞楫貫きおろし
- 船の両舷に楫を取りつけて。
- 海神の手に卷かしたる珠襷
- 海の神が手に巻く玉のたすきのように、「懸く」を導く序。
和歌
- 作者
- 笠金村(生没年未詳)
元正天皇・聖武天皇の時代の宮廷歌人。行幸に従った歌や旅の歌が多く、「笠朝臣金村の歌集」が万葉集の資料になった。 - 出典
- 『万葉集』巻第三・雑歌・366〜367番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
- 状況
- 笠金村が、越前国の角鹿津(福井県敦賀市)で船に乗ったときに詠んだ長歌と反歌。
修辞
- 枕詞
- 「いさなとり」「丈夫の」「草枕」。
- 序詞
- 「海神の手に卷かしたる珠襷」が「懸けて」を導く。
解説
364・365番に続く、北陸への旅の歌である。日本海の船旅を詠んだ歌は万葉集でも珍しい。手結の浦は敦賀湾の東岸、今の田結(たい)のあたりとされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、108頁(コマ58)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、110頁(コマ61)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日