古典ライブラリー

万葉集 巻第三 296〜297番

廬原の 清見が埼の

田口益人(たぐちのますひと)

廬原の清見が崎の三保の浦の、広々とした眺めを見ていると、何の物思いもない。昼見ても飽きない田子の浦を、大君の命令を恐れて夜に見て通ることだ。上野国へ赴任する途中の歌。

月明かりの海辺の道を、旅の一行が急いで通り過ぎていく。海の向こうには松林の続く三保の浦

題詞田口益人大夫、上野國司に任ぜられし時、駿河淨見埼に至りて作れる歌二首

  1. 1廬原いほはら廬原いほはらいおはらののの廬原乃296
  2. 2清見きよみ清見きよみきよみががが埼さき埼さきさきののの清見之埼乃
  3. 3三保みほ三保みほみほののの浦うら浦うらうらののの見穗乃浦乃
  4. 4寛ゆた寛ゆたゆたけきけきけき見み見みみつつつつつつ寛見乍
  5. 5ものものもの思おも思おもおもひひいもももなしなしなし物念毛奈信
  6. 6晝ひる晝ひるひる見み見みみれれれどどど晝見騰297
  7. 7飽あ飽ああかかかぬぬぬ田兒たご田兒たごたごののの浦うら浦うらうら不飽田兒浦
  8. 8大おほ大おほおお王きみ王きみきみののの大王之
  9. 9命みこと命みことみことかしこみかしこみかしこみ命恐
  10. 10夜よる夜よるよる見み見みみつるつるつるかもかもかも夜見鶴鴨

引用の仕方

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現代語訳

〔296〕廬原の清見が崎の、三保の浦の広々とした眺めを見ていると、何の物思いもない。

〔297〕昼に見ても見飽きない田子の浦を、大君のご命令を恐れ慎んで、夜に見て通ることだ。

意訳

上野国(今の群馬県)の国司に任じられた田口益人は、東海道を東へ向かう途中、駿河の清見が崎で三保の浦の広い眺めに心を奪われ、旅の憂いも忘れる。しかし任地への旅は急がなければならない。297番では、昼に見ても飽きない田子の浦の景色を、天皇の命令を重んじて夜のうちに通り過ぎる心残りを歌っている。

語釈・文法注

文法・本文

寛けき見つつ
「ゆたけし」は広々としてゆったりしている。
命かしこみ
大君の命令を恐れ慎んで。官人の旅の歌に多い表現。

和歌

作者
田口益人(?–720)
奈良時代初めの官人。和銅元年(708)に上野守となった。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・296〜297番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
田口益人が上野国司に任じられ、任地へ向かう途中、駿河の清見が崎(今の静岡市清水区興津)で詠んだ歌二首。

修辞

対比
297番で、「晝」と「夜」を対比させる。

解説

美しい景色を前にしながら、公務のためにゆっくり眺めることができない官人の嘆きは、万葉集の旅の歌によく見られる。田子の浦は、のちに山部赤人の富士山の歌(318番)でも名高い。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、99頁(コマ53)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、99頁(コマ55)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日