古典ライブラリー

万葉集 巻第三 292〜295番

ひさかたの 天の探女が

角麻呂(つぬのまろ)

天の探女が石の船を泊めたという高津は、もう浅くなってしまったのか。三津の海女の玉藻刈り、風に浜へ戻る釣船、天皇の行幸した住吉の松原。難波の海辺の四首。

難波の浅い入り江で、海女たちが籠を手に玉藻を刈り、沖では白波が立って釣船が浜へ戻ってくる

題詞角麻呂の歌四首

  1. 1ひさかたひさかたひさかたののの久方乃292
  2. 2天あま天あまあまののの探さぐ探さぐさぐ女め女めめががが天之探女之
  3. 3石いは石いはいわ船ふね船ふねふねののの石船乃
  4. 4泊は泊ははてててししし高津たかつ高津たかつたかつははは泊師高津者
  5. 5淺あ淺ああせせせにににけるけるけるかもかもかも淺爾家留香裳
  6. 6鹽しほ鹽しほしお干ひ干ひひののの鹽干乃293
  7. 7三津みつ三津みつみつののの海あ海ああ女ま女ままののの三津之海女乃
  8. 8くぐつくぐつくぐつ持も持ももちちち久具都持
  9. 9玉たま玉たまたま藻も藻もも苅か苅かかるるるらむらむらん玉藻將苅
  10. 10いざいざいざ行ゆ行ゆゆきききててて見み見みみむむむ率行見
  11. 11風かぜ風かぜかぜををを疾いた疾いたいたみみみ風乎疾294
  12. 12奧おき奧おきおきつつつ白しら白しらしら浪なみ浪なみなみ奧津白浪
  13. 13高たか高たかたかからからからししし高有之
  14. 14海あ海ああ人ま人ままののの釣つり釣つりつり船ぶね船ぶねぶね海人釣船
  15. 15濱はま濱はまはまににに歸かへ歸かへかえりりりぬぬぬ濱眷奴
  16. 16住吉すみのえ住吉すみのえすみのえののの清江乃295
  17. 17岸きし岸きしきしののの松まつ松まつまつ原ばら原ばらばら木笶松原
  18. 18遠とほ遠とほとおつつつ神かみ神かみかみ遠神
  19. 19わがわがわが王おほきみ王おほきみおおきみののの我王之
  20. 20幸いで幸いでいで行まし行ましまし處どころ處どころどころ幸行處

引用の仕方

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現代語訳

〔292〕(ひさかたの)天の探女が石の船を泊めたという高津は、浅くなってしまったことよ。

〔293〕潮の引いた三津の海女たちが、くぐつを持って玉藻を刈っているだろう。さあ行って見よう。

〔294〕風が激しいので、沖の白波が高いらしい。漁師の釣船が浜に帰ってきた。

〔295〕住吉の岸の松原は、(遠つ神)わが大君がお出ましになった所だ。

意訳

難波の海辺を詠んだ四首である。292番は、天から降った探女が石の船を泊めたという伝説の高津の港が、今は浅くなってしまったと、時の移り変わりを嘆く。293番は潮の引いた浜で玉藻を刈る海女たちを見に行こうと誘い、294番は風が強まって釣船が浜へ戻ってくる様子を描き、295番は住吉の松原を天皇の行幸の地としてたたえる。

語釈・文法注

文法・本文

くぐつ
海藻などを入れる、藁や草で編んだ袋や籠。
遠つ神
遠い祖先の神の意で、「わが大君」にかかる枕詞。
幸行處
天皇がお出ましになった所。

和歌

作者
角麻呂(生没年未詳)
伝未詳。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・292〜295番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第3期(710〜733年(平城京遷都〜山上憶良の没年ごろ))
状況
角麻呂が、難波の海辺を詠んだ歌四首。

修辞

枕詞
「ひさかたの」「遠つ神」。

解説

天の探女は、記紀神話で天若日子に仕えた女神。摂津国風土記の逸文に、探女が天の磐船に乗って高津に降りたという伝承が見え、この歌はそれにもとづいている。

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出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、99頁(コマ53)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、99頁(コマ55)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日