万葉集 巻第三 236番
不聽といへど
もういいと言っても無理に聞かせる志斐の婆の無理語り、それもこのごろ聞かないので、私は恋しくなった。持統天皇が、話好きの老女をからかった歌。
場面イラスト(準備中)
題詞天皇、志斐嫗に賜へる御歌一首
現代語訳
もういいと言っても無理に聞かせる、志斐の婆の無理語りを、このごろ聞かないので、私は恋しくなってしまった。
意訳
志斐嫗は、宮中に仕える語り部の老女であったらしい。聞きたくないと言っても話し続ける嫗の「強語」を、天皇は親しみをこめてからかう。しばらく聞かないと、かえって恋しくなるというのである。次の237番で嫗が言い返しており、主従の気のおけないやりとりがうかがえる。
語釈・文法注
文法・本文
- 强ふる志斐のが
- 「志斐の」の「の」は親しみを表す接尾語、「が」は主格。無理に聞かせる志斐の婆が。
- 朕戀ひにけり
- 天皇の自称「朕」を「われ」と訓む。
和歌
- 作者
- 持統天皇(645–702)
天智天皇の皇女で、天武天皇の皇后。夫の死後に即位し、藤原京を造った。 - 出典
- 『万葉集』巻第三・雑歌・236番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 天皇(持統天皇か)が、宮中に仕える老女の志斐嫗に与えた歌。嫗の名は伝わらない。
修辞
- 同語反復
- 「强ふる」「强語」と、「强(しひ)」と「志斐(しひ)」の音を重ねる。
解説
「しひ」という嫗の呼び名と、無理に話を聞かせる「強ひ」とを掛けた、言葉遊びの歌である。天皇の御製としては珍しく、くだけた笑いのある歌で、続く嫗の答えの歌と一組になっている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、91頁(コマ49)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、89頁(コマ50)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日