古典ライブラリー

万葉集 巻第三 237番

いなといへど

志斐嫗(しいのおみな)

もう結構と申し上げても、語れ語れとおっしゃるからこそ、この志斐めはお話し申し上げるのです。それを無理語りとおっしゃるとは。志斐嫗が持統天皇の歌に言い返した歌。

年老いた女官が、すました顔で女帝に言い返している。女帝は扇で口もとを隠して笑っている

題詞志斐嫗の和へ奉れる歌一首(嫗の名未だ詳ならず)

  1. 1いないないなととといへいへいえどどど不聽雖謂
  2. 2語かた語かたかたれれれ語かた語かたかたれれれととと話禮話禮常
  3. 3詔の詔ののらららせせせこそこそこそ詔許曾
  4. 4志斐しひ志斐しひしいいいいははは奏まを奏まをもうせせせ志斐伊波奏
  5. 5强しひ强しひしい話がたり話がたりがたりととと言の言ののるるる强話登言

引用の仕方

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現代語訳

いやですと申し上げても、語れ語れとおっしゃるからこそ、この志斐めはお話し申し上げるのです。それを無理語りとおっしゃるとは。

意訳

天皇に「無理に聞かせる話」とからかわれた嫗は、話をせがむのはそちらでしょうと、ぴしゃりと言い返す。天皇の言葉をそのまま受けて切り返すところに、長年仕えた老女の機知と、主従の親しさが表れている。

語釈・文法注

文法・本文

志斐いは
「い」は主語を強める助詞。この志斐こそは。
强話と言る
「言る」は「詔る」に同じで、天皇がおっしゃる。無理語りとおっしゃる。

和歌

作者
志斐嫗(生没年未詳)
持統天皇に仕えた老女。名は伝わらない。
出典
『万葉集』巻第三・雑歌・237番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
236番の持統天皇の歌に、志斐嫗がお答えした歌。

解説

236番と一組の、宮廷の機知に富んだ問答である。天皇の歌の「不聽といへど」を「いなといへど」と受け、「强語」を「强話」と返して、言葉を一つずつ打ち返している。

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出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、91頁(コマ49)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、89頁(コマ50)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日