古典ライブラリー

万葉集 巻第二 113番

み吉野の 玉松が枝は

額田王(ぬかたのおおきみ)

吉野の松の枝はいとしいこと。あなたのお言葉を持って通ってくるのだから。苔むした松の枝を贈られた額田王の礼の歌。

苔の生えた松の小枝を手にした老いた女性が、文を読みながら微笑んでいる
苔の生えた松の小枝を手にした老いた女性が、文を読みながら微笑んでいる

題詞吉野より蘿生せる松が柯を折り取りて遣しし時、額田王の奉入れる歌

  1. 1みみみ吉野よしの吉野よしのよしのののの三吉野乃
  2. 2玉たま玉たまたま松まつ松まつまつががが枝え枝ええははは玉松之枝者
  3. 3愛は愛ははしきしきしき波思吉香聞
  4. 4君きみ君きみきみががが御み御みみ言こと言ことことををを君之御言乎
  5. 5持も持ももちちちててて通かよ通かよかよはくはくわく持而加欲波久

引用の仕方

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現代語訳

吉野の美しい松の枝は、なんといとしいことでしょう。あなたのお言葉を持って通ってくるのですから。

意訳

弓削皇子が吉野から、苔の生えた松の枝を折って手紙に添えて送ってきた。松は長寿の象徴であり、苔むした枝は長い年月を思わせる。額田王は、皇子の言葉を運んでくる松の枝をいとしく思い、心からの感謝を伝えている。老いた身への皇子のやさしい心づかいが、松の枝に託されている。

語釈・文法注

愛しきかも
いとしいことよ。原文は「波思吉」と仮名で書く。

文法・本文

通はく
「通ふ」のク語法。通ってくることよ。

和歌

作者
額田王(生没年未詳(7世紀後半))
天智・天武天皇の時代を代表する女性歌人。この歌は晩年の作とみられる。
出典
『万葉集』巻第二・相聞・113番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
状況
弓削皇子が吉野から苔の生えた松の枝を折り取って額田王に贈ったとき、王が答えて奉った歌。

解説

111・112番の贈答に続く歌で、吉野にいる弓削皇子と、都の額田王との交流を伝えている。手紙に季節の草木の枝を添えて贈るのは、のちの平安時代にも受け継がれた風雅な習慣である。

「蘿(こけ)生せる松」は長寿の象徴で、老いた額田王の長寿を祝う意味もこめられていたと考えられる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、54頁(コマ31)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、48頁(コマ30)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日