古典ライブラリー

古今和歌集 巻第十九 雑体(長歌) 1006番

おきつなみ

伊勢(いせ)

沖の波が荒れるように、荒れるばかりの宮の内では、長年お仕えした伊勢の海人の私も、舟を流してしまったような心地がして、寄る所もなく悲しいので、涙の色は紅となり、私たちの間に降る時雨となって、秋の紅葉が散るように人々はめいめい散り散りに別れてしまうので、頼りにする陰もなくなって、あとに残るものとしては、花すすきが主のいない庭に群れ立って空を招くように手招きしても、初雁が鳴きながら渡っていくように、よそながら見ることになるだろう。

作者
伊勢
  1. 1七條しちでう七條しちでうしちじょうののの后きさき后きさききさきうせうせうせ給たま給たまたまひにけるひにけるいにける後のち後のちのちによみけるによみけるによみける詞書
  2. 2おきつなみおきつなみおきつなみ   あれのみまさるあれのみまさるあれのみまさる1–2句
  3. 3宮みや宮みやみやのののうちはうちはうちわ   としへてとしへてとしえて住す住すすみしみしみし3–4句
  4. 4伊勢いせ伊勢いせいせののの蜑あま蜑あまあまももも   ふねながしたるふねながしたるふねながしたる5–6句
  5. 5ここちしてここちしてここちして   よらむかたなくよらむかたなくよらむかたなく7–8句
  6. 6かなしきにかなしきにかなしきに   なみだのいろのなみだのいろのなみだのいろの9–10句
  7. 7くれなゐはくれなゐはくれないは   われらがなかのわれらがなかのわれらがなかの11–12句
  8. 8しぐれにてしぐれにてしぐれにて   あきのもみぢとあきのもみぢとあきのもみじと13–14句
  9. 9ひとびとひとびとひとびとははは   おのがちりぢりおのがちりぢりおのがちりじり15–16句
  10. 10わかれなばわかれなばわかれなば   たのむかげなくたのむかげなくたのむかげなく17–18句
  11. 11なりなりなりはははてててててて   とまるものととまるものととまるものとははは19–20句
  12. 12はなすすきはなすすきはなすすき   きみなきにきみなきにきみなきにははわににに21–22句
  13. 13むれたちてむれたちてむれたちて   そらそらそらをををまねかばまねかばまねかば23–24句
  14. 14はつかりのはつかりのはつかりの   なきわたりつつなきわたりつつなきわたりつつ   よそにこそよそにこそよそにこそ見み見みみめめめ25–27句

引用の仕方

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現代語訳

〔詞書〕七条の后(藤原温子)がお亡くなりになった後に詠んだ歌。

沖の波が荒れるように、荒れるばかりの宮の内では、長年お仕えした伊勢の海人の私も、舟を流してしまったような心地がして、寄る所もなく悲しいので、涙の色は紅となり、私たちの間に降る時雨となって、秋の紅葉が散るように人々はめいめい散り散りに別れてしまうので、頼りにする陰もなくなって、あとに残るものとしては、花すすきが主のいない庭に群れ立って空を招くように手招きしても、初雁が鳴きながら渡っていくように、よそながら見ることになるだろう。

意訳

仕えていた中宮温子の死を嘆き、主を失った宮の荒廃と、女房たちが散り散りになる悲しみを、海人・紅葉・すすき・雁などに託して詠む。

語釈・文法注

七条の后
宇多天皇の中宮、藤原温子。伊勢が仕えた主人。
伊勢の蜑
伊勢の海人。作者自身をさす。
花すすき…まねかば
すすきの穂を招く手に見立てる。

和歌

作者
伊勢(いせ) 872?–938?
伊勢守藤原継蔭の娘。宇多天皇の中宮温子に仕え、宇多天皇の皇子を産んだ。のち敦慶親王との間に娘の中務(歌人)を産んだ。『古今和歌集』に女性歌人として最も多い歌が入る。三十六歌仙の一人。
出典
『古今和歌集』巻第十九・雑体(長歌)・1006番
歌体
長歌
状況
詞書「七條の后うせ給ひにける後によみける」(七条の后(藤原温子)がお亡くなりになった後に詠んだ歌)。

修辞

掛詞
「伊勢」に作者の名をかける。
見立て
涙を時雨に、すすきを招く手に。

解説

伊勢の長歌。主人への哀悼の情が深い、古今集長歌の名作。

関連

出典

底本
有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、188頁(コマ107)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
更新日